天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
その日、ICUで聡悟が目を覚ましたのは深夜になってからだった。
俺が心電図モニターをチェックしていると、ベッドから酸素マスク越しのくぐもった声が聞こえてきた。
「なんだ……生きてるじゃないか」
弱々しくも皮肉げな言葉に反応して振り向くと、聡悟がうっすら目を開けていた。
「当たり前だ。俺が執刀したんだから」
嫌味を返すようにそう言って、聡悟のベッドの脇の椅子に座る。
「お前は本当に優秀な外科医だよ。……ずっと、羨ましかった」
聡悟は宙を見ながら、ゆったり言葉を紡ぐ。俺はそのまま、聡悟の言葉に黙って耳を傾けた。
「僕は、もともと精神科医になりたかったんだ。しかし、お前への対抗心から心臓外科医の道を選んだ。そんな生半可な気持ちで、医師として成功するはずもないのに。一方、お前は研修医の頃から外科医としての才能を開花させ、海外に渡ってからもどんどん難しい症例をこなしていく。……僕は腐ったよ」
初めて兄がさらけ出した心の内に、胸が痛くなる。
帰国してからの聡悟が前とは別人のように思えたのは、人知れず挫折に苦しんでいたからだったのだ。