天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
四月になり、普通であれば妊娠が安定期に入る週数になった。
少しホッとできるのかな、なんて思っていたら、多胎妊娠には安定期がないのだと、貴船総合病院の産婦人科で教えられた。
もちろん初期より状態は落ち着いていて、つわり症状も最近では感じないが、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症、切迫早産になる確率も高く、無理はできない。
そんな中ではあるが、私は予定通り商品部へ異動となった。
仲良しだった柿田さんと桃瀬さんと離れるのは寂しかったけれど、やっぱり憧れの部署でバイヤーの仕事ができるのはうれしい。
ただ、あと数カ月で出産に向けて管理入院をしなければならず、先輩方のように海外を回って取引先と交渉をしたり、現地のトレンドを調査したりすることができず、中途半端な立場が申し訳ない。
配属初日にさっそくそう謝った私に、商品部の女性上司、枇杷さんはなんでもないことのように言った。
「仕事は適材適所。フットワークの軽さだけがバイヤーの仕事じゃないの。佳味百花の客層には、あなたのように妊娠中だったり、子持ちの女性も多い。今の梨木さんの感覚を、ぜひ商品部全体で共有させてほしいわ」
「はい……!」
枇杷さんのおおらかな優しさをありがたく思うのとともに、『こっちの部署にも素敵なフルーツ仲間がいました……!』と、心の中で柿田さんと桃瀬さんに感激を伝えた。