天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~
男の人に抱きしめられる体験なんて初めてだったので、気が動転してちゃんと返事ができない。
ゆっくり体を離した聡悟くんは、優しい手つきで背中まである私の長い髪を撫で、「じゃあ、おやすみ」と言い残し、車に戻っていく。
ああ、びっくりした。いつも大人っぽい余裕と自信にあふれている聡悟くんが、あんな行動に出るなんて。
彼のまっすぐな思いがくすぐったい反面、自分は彼ほどの気持ちを返せないことに、罪悪感を覚える。
私が聡悟くんを愛せれば、なんの問題もないのに……。
ぼんやりそう思いながら今度こそ門扉を押して自宅の敷地に入り、庭から玄関までの石畳を歩く。その途中で玄関のドアが開く音がして、誰かがぬっと顔を出した。
「二階の窓から見てたわよ~絢美。あんなに熱い抱擁を交わしちゃって! とうとう決めたのね? 聡悟さんとの結婚」
にやにやと締まりのない笑みを浮かべて私を出迎えたのは、私の母だ。
五十代にもなって芸能ゴシップが大好物のミーハーな性格で、娘のスキャンダルを嗅ぎつけた今も、テレビのワイドショーにかじりついている時と同じ顔をしている。