告白の代わりにありがとうを
仕事中、パソコンの画面の上部に社内メールの着信を知らせるポップアップが表示された。

私はいつものように開いてみる。

『送別会のお知らせ』

そこには、今月末で東京本社から、横浜支店に異動する佐伯 蓮飛(さえき れんと)主任の送別会の詳細が書かれている。

そっか。
後2週間でいなくなっちゃうんだ。

佐伯主任は、私が入社した時からずっとお世話になってきた先輩社員。

3年先輩の彼は、右も左も分からない私をいつも優しくサポートしてくれた。

私は、いつから、そんな彼を男性として見るようになったんだろう。

気付いたら、好きになってた。

でも、ずっと一緒に仕事をする関係なのに、思いを伝える勇気は私にはなくて……

だから、ずっと先輩社員を慕う後輩社員としての関係を保ってきた。

だけど……

このままでいいの?

何も伝えないまま、さよならしてしまって後悔しない?

私は自問自答する。




私は、仕事帰りに買い物に行った。

ずっとお世話になってきた佐伯主任に、せめて感謝の意だけでも伝えたい。

邪魔にならなくて、使ってもらえそうな物……

あまり高価な物だと、逆に気を遣わせてしまうかもしれない。

いろいろ見て回った結果、私は万年筆を買った。

名前の刻印をお願いして帰路に就く。

万年筆なら、ずっと佐伯さんの胸ポケットに入れておいてもらえる。

私はそばにいられなくても、代わりにずっとそばにいられる。

それって、幸せなことじゃない?
例え、思いが届かなくても。



< 2 / 6 >

この作品をシェア

pagetop