あなたの声が聞きたくて……
私が制服の着物を来て、更衣室を出ると、店長が待っていた。
彼は、私を上から下まで厳しい目で見た後、ふっと笑みを浮かべて言った。
「短時間で着た割には、綺麗に着てるな。
じゃ、詳しいことは、高野さんに聞いて」
私が目をやると、店長の後ろで、私と同じ着物を着た40代くらいの女性が綺麗にお辞儀をした。
私は慌てて居住まいを正して、
「三島 聖と申します。
よろしくお願い致します」
と最敬礼で頭を下げる。
その日から私は、仕事について一から教わった。
高野さんは、ベテランのパートさんで、数年ごとに異動を繰り返す社員さんより、この店のことは詳しかった。
けれど……
「こんなことも分からないの?
大学なんか出てても今の子は……」
「こんなの常識でしょ!
社長秘書してたっていっても、常識ないのね」
高野さんは、嫌味と八つ当たりがとても多かった。
なんでここまで言われなきゃいけないのか?
理不尽な思いを抱えながらも、今は他に就職先のあてもない。
私は我慢して仕事をし、その憂さを晴らすようにfairさんとのカラオケを楽しんだ。
最近では、fairさんのたくさんのフォロワーの中に、仲良くしてくれる女性も増えて、まるで昔からの友人のように楽しく過ごすことができる。
緊急事態宣言が出てから、接客業の私は、リアルの友人とは会えないけれど、その分、新しい友人ができたようで嬉しい。
再就職をして3ヶ月が過ぎた頃、そのオンラインカラオケ友人たちから、オフ会の話が持ち上がった。
会いたい!
意外にも同じ県だったり、隣の県だったりして、頑張れば会えるところに住んでる人が、何人もいることが分かった。
私は、その友人たちと会うことを目標に、日々の仕事を頑張った。
緊急事態宣言のせいで、私の歓迎会すらないまま、高野さんの意地悪な指導は変わらず続いた。
ある日の閉店後、私が帰ろうとすると、店長に呼び止められた。
「三島さん、いつもありがとう」
えっ? 何のこと?
突然、お礼を言われても、何のお礼なのか分からない。
「はぁ……」
私は曖昧な返事をして、首をかしげた。
「高野さんが、決して親切な指導係じゃないことは、俺も分かってるんだ。そのせいで何人も辞めてったことも。それでも、文句一つ言わず、毎日、頑張ってくれてありがとう」
そんなこと?
確かに、高野さんは意地悪だし、ムカつくこともたくさんあるけど、そんなの、社長秘書をしてる時だって嫌がらせはたくさんされたから慣れてる。
平日に交代で休むから、高野さんが休みの日の開放感といったら、それはもう格別に清々しいし、店長をはじめ、他の従業員は、みな親切だから、頑張れる。
「俺、三島さんには、辞めて欲しくないと思ってる」
まっすぐ見つめられてそう伝えられると、なんだか自分の仕事ぶりを認められたようで嬉しくなる。
「ふふふっ」
思わず、笑みがこぼれた。
「ありがとうございます。大丈夫です。辞めたりしませんよ」
私がそう言うと、店長も笑顔を見せた。
「本当なら、歓迎会代わりに食事でもおごってやりたいんだけど、行く店がなくて悪いな」
緊急事態宣言のせいで、うちが閉店後にはどこの飲食店もやってない。
おごれない言い訳にするにはちょうどいい。
私はくすくすと笑みをこぼした。
「もし、本当におごっていただけるんなら、私、休みの日のランチでも構いませんよ」
私は、軽口を叩く。
ところが、そこで、しどろもどろに言い訳がましく断る店長を想像してたのに、店長は驚いたように私を見た後、
「考えておく」
と一言呟いて、背を向けた。
えっ?
いや、冗談ですよ?
そう言いたかったけれど、背を向けられてしまったから、声を掛け辛い。
私は、店を出て通用口に向かう店長を足早に追った。
彼は、私を上から下まで厳しい目で見た後、ふっと笑みを浮かべて言った。
「短時間で着た割には、綺麗に着てるな。
じゃ、詳しいことは、高野さんに聞いて」
私が目をやると、店長の後ろで、私と同じ着物を着た40代くらいの女性が綺麗にお辞儀をした。
私は慌てて居住まいを正して、
「三島 聖と申します。
よろしくお願い致します」
と最敬礼で頭を下げる。
その日から私は、仕事について一から教わった。
高野さんは、ベテランのパートさんで、数年ごとに異動を繰り返す社員さんより、この店のことは詳しかった。
けれど……
「こんなことも分からないの?
大学なんか出てても今の子は……」
「こんなの常識でしょ!
社長秘書してたっていっても、常識ないのね」
高野さんは、嫌味と八つ当たりがとても多かった。
なんでここまで言われなきゃいけないのか?
理不尽な思いを抱えながらも、今は他に就職先のあてもない。
私は我慢して仕事をし、その憂さを晴らすようにfairさんとのカラオケを楽しんだ。
最近では、fairさんのたくさんのフォロワーの中に、仲良くしてくれる女性も増えて、まるで昔からの友人のように楽しく過ごすことができる。
緊急事態宣言が出てから、接客業の私は、リアルの友人とは会えないけれど、その分、新しい友人ができたようで嬉しい。
再就職をして3ヶ月が過ぎた頃、そのオンラインカラオケ友人たちから、オフ会の話が持ち上がった。
会いたい!
意外にも同じ県だったり、隣の県だったりして、頑張れば会えるところに住んでる人が、何人もいることが分かった。
私は、その友人たちと会うことを目標に、日々の仕事を頑張った。
緊急事態宣言のせいで、私の歓迎会すらないまま、高野さんの意地悪な指導は変わらず続いた。
ある日の閉店後、私が帰ろうとすると、店長に呼び止められた。
「三島さん、いつもありがとう」
えっ? 何のこと?
突然、お礼を言われても、何のお礼なのか分からない。
「はぁ……」
私は曖昧な返事をして、首をかしげた。
「高野さんが、決して親切な指導係じゃないことは、俺も分かってるんだ。そのせいで何人も辞めてったことも。それでも、文句一つ言わず、毎日、頑張ってくれてありがとう」
そんなこと?
確かに、高野さんは意地悪だし、ムカつくこともたくさんあるけど、そんなの、社長秘書をしてる時だって嫌がらせはたくさんされたから慣れてる。
平日に交代で休むから、高野さんが休みの日の開放感といったら、それはもう格別に清々しいし、店長をはじめ、他の従業員は、みな親切だから、頑張れる。
「俺、三島さんには、辞めて欲しくないと思ってる」
まっすぐ見つめられてそう伝えられると、なんだか自分の仕事ぶりを認められたようで嬉しくなる。
「ふふふっ」
思わず、笑みがこぼれた。
「ありがとうございます。大丈夫です。辞めたりしませんよ」
私がそう言うと、店長も笑顔を見せた。
「本当なら、歓迎会代わりに食事でもおごってやりたいんだけど、行く店がなくて悪いな」
緊急事態宣言のせいで、うちが閉店後にはどこの飲食店もやってない。
おごれない言い訳にするにはちょうどいい。
私はくすくすと笑みをこぼした。
「もし、本当におごっていただけるんなら、私、休みの日のランチでも構いませんよ」
私は、軽口を叩く。
ところが、そこで、しどろもどろに言い訳がましく断る店長を想像してたのに、店長は驚いたように私を見た後、
「考えておく」
と一言呟いて、背を向けた。
えっ?
いや、冗談ですよ?
そう言いたかったけれど、背を向けられてしまったから、声を掛け辛い。
私は、店を出て通用口に向かう店長を足早に追った。