『君』の代わり。
「おじゃましましたー
おばあちゃん今日もごちそうさまでした」
「はいはい、気を付けてね
ひなちゃん脚出して寒くないか?」
「うん、大丈夫
星野が温めてくれるから!
おばあちゃん風邪ひかないでね
おやすみなさい!」
「おやすみ」
外に出たら
雪が降りそうなくらい
寒かった
「寒…」
「おばあちゃんのおでん、美味しかった
絶対コンビニのより美味しいと思う!
コンビニで働いてた星野には悪いけどね」
「別にオレが作ってたわけじゃないし
冬になる前に辞めてたし…」
目標もなく
バイトも辞めて
部活をするわけでもなく
ずっと朝日奈のことしか
考えてなかった
「ねー、星野…」
「なに?」
「寒い」
「オレも」
朝日奈の手をポケットに入れた
朝日奈がオレにくっついた
白い息が上がって
ーーー
まだ温かい唇が
優しく触れた
「温かくなった?」
「うん」
少し体温が上がる
「ねー、星野…
…
冬休み東京帰る?」
「なんで?」
東京に帰ったら
きっと
また父親に大学の話をされる
大事な事だけど
自分の事だけど
いつも父親には
自分の気持ちを言えない
だから
できれば
帰りたくなかった
「朝日奈、また行きたいところあるの?」
「んーん…
…
進路の話とか、しなくていいの?」
進路の話
やっぱり
朝日奈も気にしてた
「星野が東京の大学行ったらさ
おばあちゃんひとりで
きっと寂しいと思うから
私、毎日おばあちゃんのところ
行ってもいい?」
「え…」
「私はこっちに残ると思うから
そしたら
たまに東京遊びに行くね
…
そしたら
星野の部屋にまた泊めてくれる?
そしたら
また東京案内してね
…
星野はきっと東京に戻ったら
合コンとか行って
大学デビューとかしちゃってさ
かわいい子に囲まれて…
そしたら
もぉこっちには帰ってこなくなって…
…
そしたら、私…」
なに
それ
「オレの進路
なんで朝日奈が決めてんの?
…
ばあちゃんはオレがいなくなったら
きっと寂しいと思う
オレのこと大好きだから…
…
朝日奈は…?
…
寂しくないの?
オレがいなくても」
「ん…」
「ホントに…?」
「東京行ってもいいけど…
合コン行ってもいいけど…
かわいい子に囲まれてもいいけど…
…
ちゃんと、帰ってきてね…
…
ちゃんと…
…
待ってるから…
…
私は
星野じゃなきゃ、ダメだから…」
朝日奈
ひとりで考えてた?
オレが何も話さないから
ずっと考えてたのかな?
「行かないよ
オレ、東京行かないよ
…
たぶん、もぉ戻らない
…
向こうには何もないから…
…
ずっとここにいたいし
大学デビューもしない
…
朝日奈がいるところに
ずっといたい」
朝日奈と一緒にいると
この世界にふたりしかいないみたいな
そんな感覚になる時がある
朝日奈の代わりも
オレの代わりも
誰の代わりもなくて
オレは
朝日奈じゃなきゃ
ここじゃなきゃ
オレでいれない