『君』の代わり。
この町で
朝日奈に出会った
入学して間もない頃
教室の隅にいたオレに話し掛けてくれた
「星野って、何中だった?」
「オレ、こっちの中学じゃないから…」
「こっちじゃないって?」
「ん、東京…」
東京って言っても
東京の田舎の方だったから
東京って口にするのも嫌だった
「え!転校生ってこと?
知らなかった」
中学入学と同時にこっちに来たから
転校生てわけでもなかった
「ねぇ、東京って楽しい?
遊ぶ所いっぱいある?
芸能人に会ったことある?
かわいい子いっぱいいる?
みんな大人っぽそうだな…」
「んー…」
朝日奈の質問が
子供っぽいなって思った
東京って聞いただけで
目をキラキラさせてた
確かに
入学式の時
みんなが子供っぽく見えた
この前まで小学生だったわけだけど
みんなどことなく垢抜けてなくて
何も知らないみたいな顔をしてる
ゲームの話
YouTubeの話
男子の話題はいつもそれ
女子はみんな肩ぐらいの長さの髪を束ねて
前髪をいつも気にしてた
きっとそれがオシャレなんだろうな
みんな同じ制服
ヒザ下までのスカートの長さ
みんなちゃんと校則守ってて
自分の自由にできるのは前髪ぐらい
それもみんなオレには同じに見えるけど
くだらないことで盛り上がって
どこで笑っていいのかわからなくて
ついていけなかった
「今度、東京行ってみたい
そしたら、星野案内してよ!
こっちは私が案内してあげるから!」
「うん…」
朝日奈と初めて話した会話
まだ憶えてる