『君』の代わり。

「次の電車まで20分ぐらいあるね
朝日奈、時間大丈夫なの?
家に連絡入れた?」



「ん?うん、大丈夫
お母さんに遅くなるって言ってある」



駅のベンチに

星野と座って電車を待った



今日は耀先輩に告白するって決めてたから

朝、お母さんに言ってきた



告白のことは言ってないけど

友達とご飯食べてくるかも…って

嘘をついた



でも

こんなに遅くなるつもりはなかった



朝の私は

今の私の気持ちを想像もしてなかった



もしかしたら

ふられることも予想はしてた



ふられた挙句

もっとそれ以上に遥かに傷付いた



それは予想外だった



先輩って

あんな人だったんだ



私が勝手に思い描いた先輩

それと違ったから

違いすぎたから

傷付いた



期待した私が悪い

私の理想と違っただけ



入学してまだ間もないのに

これから先の高校生活

楽しくなるとは思えない



「朝日奈、寒くない?
田舎って、電車の本数少ないよね」



隣で星野が言った



「うん、でもこの時間はこれでも早い方だよ
昼間なんて1時間近く待つし…
星野、東京の人だもんね
東京、いいな…」



星野は

同じ中学で

中学からこっちのおばあちゃんちに住んでる



それまでは東京の人だったらしい



「あっちはいつも電車混んでるし
人が多すぎて疲れる」



さっきの電車だって

星野にしてみたら

そんなに混んでなかったはず



たぶん

私のために…?



星野にバレてる?

先輩にふられたこと



「星野、私ね…」



自分から言った方が

苦しくない気がした



でも

言葉が出てこなかった



「あっちは
星だって、こんなに綺麗に見えないし
桜も入学式にはとっくに散ってるから
新しい恋をしようとした時には
全部散ってる」



新しい恋…



「朝日奈
新しい恋、始まらなかった?」



言葉に詰まる私に

星野が優しく聞いた



優しいのに

なんでかな?



また

泣きそうになった



「朝日奈、あの先輩のこと
好きだったでしょ

さっき、ホームにいた」



「…ん?

…うん…」



先輩を好きだったこと

隠せなくて頷いた



「今日、告白したの?

帰りに
校舎の奥の階段にいたの見かけたから…」



星野に見られてた



「うん…
始まらなかった…

終わった…」



自分の声が震えて聞こえた



ふられたことも

認めたくなかったけど

星野に言った



「オレが泣かせたみたいじゃん
次の電車来るまでに泣きやんでね」



「…ん…」



星野の隣で

カバンから出したタオルに顔を埋めた



星野

知ってた



私が先輩を好きだったこと



私が先輩に告白したこと



きっと

ふられたことも



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