『君』の代わり。

いつもの看板を目指して

朝日奈の手を繋いで

ずっと歩いた



朝日奈は

逃げなかった



「ねー、星野…」



朝日奈から聞こえてきた



「なに?」



空はもぉ紫になってて

朝日奈の顔が

よく見えなかった



「寒い…」



「カーディガン持ってないの?」



「持ってない
だって朝は暑かったもん」



「オレも持ってないよ」



リュックから体操着を出して

朝日奈に投げた



「それでよかったら着て
汗臭いかもしれないけど…」



「ありがと…」



朝日奈は

オレの体操着をスッポリ着て

またオレの手に掴まった



小さくて

華奢な手



好きな子の手



「ねー、星野…」



「なに?」



「もし、私が…」



「うん…」



「もし私が…

星野を好きって言ったら…

キスしてもいいの?」



え…?



よく聞こえなかった



「なに?ごめん、聞こえなかった」



「もし私が…
星野を好きって言ったら…

キスしてもいいの?」



朝日奈は

さっき聞こえたのと

同じ事を言った



すぐに

理解できなかった



え…

だって…



朝日奈が?

オレのこと、好き?



そんなわけ…



「あー、ばあちゃんが言ったことなら
気にしなくていいよ
ばあちゃん、ちょっとボケてるから…」



この前

嫁とか言ってたのは

きっと冗談で…



「そぉかな?
星野のおばあちゃん
すごくしっかりしてるよ」



「たまに変なこと言うから…
朝日奈も変なこと言わなくていいよ」



「変なこと…だった?」



「え…?」



「私が、星野を好きっていうこと」



状況が

理解できなかった



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