『君』の代わり。

「あのさ…

朝日奈は
オレを好きになったらダメなんだ」



朝日奈の手を

離した



「なんで…?

もぉ、私のこと
好きじゃなくなったの?」



「いや…」



好きだよ

大好きだよ



胸がチクチクした



「ホントのこと、言ってもいいよ

でも…
星野が私のこと
もぉ好きじゃなくても…

私は、星野が好きだよ」



朝日奈が

かわいいと思った



朝日奈が

好きだと思った



それなのに…

オレは



あの夏のことを

酷く後悔した



「好きだよ
朝日奈のこと、ずっと好きだよ

でも、オレ…
朝日奈に好きって想ってもらえるような
人間じゃないから…」



「ん?
意味わかんない

だって星野は私を好きなのに
私は星野を好きになったらダメって
ズルイよ!

やっぱりホントは…
もぉ好きじゃ、ないの?」



押し潰されそうな

気持ちになった



好きなのに…



好きな子が

好きって言ってくれてるのに…



「ホントに、好きだよ

朝日奈のこと、ホントに好きだよ

ホントは…

ホントはオレ…

好きじゃない子とでもキスできるし…
好きじゃない子とでも…
そーゆーことできる

朝日奈にはするなって言ったのに…」



「え…なに…?どーゆーこと?」



朝日奈が

オレを覗きこんだ



「好きじゃない人と、寝たことある

兄ちゃんの彼女と、やったんだ…オレ」



朝日奈が

こわいって言った先輩と

同じことしてる


それよりも

最低かも…



朝日奈は

唇を噛んで泣きそうな顔をした



だよね…



やっぱり…って

思った



あの夏を

後悔してもしきれないくらい

悔やんだ



「ごめん
オレ、そーゆー人間だから…

だから…

だから、好きにならないで…」



「…いつ…?いつ、そんなことしたの?」



「中学の時…

朝日奈に告白したあと…」



全部

言った



朝日奈は

オレのこと



「じゃあ…

じゃあ…
私のことも好きにならないでよ!

ずっと好きでいないでよ!

優しくしないでよ!

隣にいないでよ!」



嫌いになった



朝日奈に

嫌われた



自業自得

天罰が下った



好きにならないでよ!

好きでいないでよ!



朝日奈の声が

誰もいない

何もない

田舎に

オレの耳に

木霊した



「ごめん…
好きになって…

ごめん…
ずっと好きで…」



何もないけど

朝日奈と

空の星が

好きだった



東京だと

見えないものが

ここにいると

見えた



朝日奈が

見せてくれたんだ



すぐ隣にいる

朝日奈が

滲んで見えなくなった



「好きに、させないでよ…

優しく、しないでよ…

さっきだって
置いてくればよかったじゃん

手なんか
繋がなきゃ、よかったじゃん」



「ごめん…」



大好きな子の気持ちを

踏み躙った



大切な人を

傷付けた



ごめん

本当に

ごめん



朝日奈

ごめん



「もぉ、星野のこと…
嫌いになれないよ…


好きだよ…

好きだよ、星野…

どーしよ…
嫌いになんて、なれないよ…」



え…



朝日奈の影が

オレの影に重なった



朝日奈の手が

オレの頬に触れた



「嫌いにならないの?オレのこと」



「うん…嫌いにならないよ」



「こわくないの?オレのこと」



「うん…こわくないよ」



朝日奈の手は

あの時の誰かの手と違って

温かかった



「星野は?

私のこと、好き?」



「うん…

好きだよ…」



「ホントに…?」



「うん…好きでいても、いいの?」



許してくれるの?



「うん…

ずっと、好きでいてくれて…
ありがとう

私も、好きだよ

星野が、好きだよ

好きになっても、いい?」



「…」



躊躇うオレに



ーーー



朝日奈が

優しく触れた



「もぉ、好きだから…

星野のこと、好きだからね」



重なった唇から

涙が伝った



「うん…

オレも、好き…

朝日奈が、好きだよ」



ーーー



天罰は

下らなかった



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