『君』の代わり。

「星野、寒くないの?」



とっくに日が落ちて

空に星が出てた



「寒いよ
歩くと思ってなかったし…
こんな遅くなると思ってなかったし…
誰かにオレの体操着貸したから…」



朝日奈には大きすぎる体操着から

小さい手を出して

朝日奈はオレの手に掴まった



「少しは温かい?」



「うん…少しは…
でも、まだ寒い…」



衣替えはまだ少し先だけど

夜の夏服はもぉ寒かった



だって朝は暑かったもん



さっき朝日奈は

そう言ったけど

オレも



朝は

こーなると思ってなかった



学校を出る時も

こーなると思ってなかった



朝日奈が

オレを好きとか

ありえないと思ってた



まだ

なんか

信じられない



いつもの看板の下まで来て

まだ朝日奈と一緒にいたくて

もう少し先まで歩いた



この手を離したくない

朝日奈を離したくない



オレの手を掴んでる朝日奈の手を

握り返した



朝日奈がオレに近付いた



「なに?」



「ん?
くっついた方が星野寒くないかな…って」



朝日奈とオレの隙間が

埋められた



まだ慣れない

この距離に



「ここ、覚えてる?」



看板から少し歩いたところ



跨線橋の下



中学の時に

みんなで話してた場所



「うん、覚えてるよ」



あの時は

同じ輪の中のひとりで



こんなに近くなるなんて

思ってもいなかった



でも…



「あの時も、オレ…
朝日奈のこと、好きだった」



「ごめん、ぜんぜん気付かなかった
そーゆーふうに星野のこと見てなかった
みんなのことが好きだったから…」



え…

さっき朝日奈が言った

好きって?



「今も、オレって、みんなの中のひとり?」



不安になった



「星野は、星野だよ」



曖昧な答えだった



なんだよ…



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