押入れから王子が出てきましたよ?
 いつも小首を傾げている王子が言う。

「何故、そんなことを訊く」

「いえ。
 理不尽にも、毎晩、馬車馬のように働かされているので、せめてイケメンの王子に命じられていると思いたいだけです」

「心配するな。
 私はイケメンだ」
と王子は言い切る。

 ……自分で言うやつはいまいち信用できないんだが、と訊いておいて思いながら、紬がチクチク縫っていると、その不信感が伝わったのか、

「本当だぞっ。
 見てビックリだぞ!」
と王子は更に言いつのる。

 へー。

 今は、ぴょこぴょこ跳ねてて可愛いなとしか思わないが……と思っていると、本気にしていないと思ったのか、王子は重ねて言ってきた。

「そのうち、元に戻った姿を見せてやる。
 神々しくて、ひれ伏すであろうっ!」

「いや、自分でハードル上げてどうするんですか」

「大丈夫だ。
 心配するな」
と言いながら、王子はトコトコ歩いてきて、横にちょこんと腰掛けた。

 紬と同じように木に背を預けて座る。

 心地の良い風だ。

 まあ、もうちょっと頑張るか……とそのときは思ったのだが。

 こっちに戻ってくると、

 ……やはり眠い。

「一ノ瀬ーっ」
と頭の上でまた谷沢の声がした。



< 14 / 47 >

この作品をシェア

pagetop