押入れから王子が出てきましたよ?
「中学時代は手芸部だったの」
と言うと、へー、意外とまた言われてしまう。

 そのまま何故か、春馬は沈黙している。

 どうした? と思って顔を上げたが、なにも言わない。

 なんだろうな、と思いながら、またややこしいところを縫い始めたとき、春馬が言ってきた。

「いや……実は、俺、お前のことが好きなんだけど。
 その、よかったら、俺と付き合ってくれないか?」

「いや、それが夕べ、王子に求婚されたところで――」

「……大丈夫か? 一ノ瀬」

 そう春馬に言われて、ようやく今の会話を頭の中で繰り返し、顔を上げた。

 ああ……しまった。

 眠くてよくわからないことを口走ってしまった……と思ったときには遅かった。


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