押入れから王子が出てきましたよ?
「なんてことしてくれたんです」
夜、向こうの世界に行った紬は、例の木の下で、続きを縫いながら、横にちょこんと座る王子に愚痴る。
「学校一のイケメンで大人気の沢良木春馬は私の返事も聞かずに、じゃあな、と行ってしまいましたよ」
昨日、貴方がおかしなことを言ったからですよ、と文句をたれた。
昨日の対戦のあと、王子が言ってきたのだ。
「今日の戦で、紬の功績に目をつけた国も数多くあるようだ。
紬、我が軍の専属人形師になるのだ」
「嫌です」
あっさり断ると、王子は小首を傾げ、……いや、いつも傾げているが、
「では、私と結婚しろ。
身内なら、誰にも取られることはあるまい」
とロクでもないことを言ってくる。
「嫌です」
王子は一瞬、言葉の意味がわからないようだった。
「この私がプロポーズしているのだぞ」
「どの私だか知りませんが、結構です」