押入れから王子が出てきましたよ?
「おのれ、私がこのような姿だから莫迦にしておるのだなっ。
 ああ、今、元の姿に戻れたらっ」
と王子は笑ったまま、苦悩している……らしい。

 ただ、笏を持った手で頭を抱え、フラフラしているようにしか見えないのだが……。

「おのれっ」
と叫んで、王子はテントを走り出ていった。

 ああっ、王子っ、と呼んだが、将軍は、
「すぐに帰ってきますよ」
と駄々をこねた子どもが飛び出していったときのような口調で笑って言ってくる。

 別に本気にしたわけではないのだが、眠い頭で、そのときのプロポーズを思い出して、春馬にそんなこと言ってしまったのだ。

「あ~あ、すごい人気者なんですよ、沢良木って」
と言うと、

「でも、お前はそいつを好きなわけじゃないんだろう?」
と王子は言う。

 うっ。
 確かにっ。

 今は沢良木とデートするより、ここでこうしてる方が楽しいかな。

 王子、飽きないし、と思いながら、縫っていたのだが、そのうち、眠くなってきた。

「紬……?
 おい、紬?」
と王子の声が聞こえてくる。

「誰か。
 紬が眠ってしまったぞ」

「運びましょうか。
 うっ、抱えられないっ」

 私はガリバーか。

 ちまちま人形たちが集まってくる気配を感じながら、紬は思う。
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