押入れから王子が出てきましたよ?
「実は、お前の世界と行き来出来るのは、戦をしているときだけなのだ」

「そ、そうなのですか?」

「その間だけ、いろんな異世界から、戦闘の材料を調達してくることを許されている。

 ……寂しくなるな」

「そうですね」

 そんな会話をして、一週間と経たないうちに戦闘は終わった。

 王子の国が勝ち、酒宴が開かれることになった。

「紬も……いや、このフィールドからお前は出られぬのか」

 そういえば、この戦闘のためのエリアから出たことはない。

「ここに城を造ろうかな。
 いや、みなの共有地だから無理か」

 王子は、そう呟く。

「待っておれ、紬。
 なにか美味いものを運んできてやる」

「いえ。
 私は、もう帰ります。

 今までありがとうございました」

 そう王子に頭を下げていると、

「紬様、ありがとうございましたっ」

「紬様、お酒呑めるんでしたっけ?
 ぜひ、ご一緒にっ」

 楽しげに自分に声をかけながら、このエリアから兵士たちが出て行く。

 彼らは、自分が此処から出られないことを知らないようだ。

 だが、それでいいと思っていた。

 せっかくの宴に水を差しそうな気がしたからだ。

 みんな、白樺の木々の間を通り消えていく。

 そこを通り過ぎたら、あの人形ではなく、人になってしまうんだろうな。
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