押入れから王子が出てきましたよ?
 ……三人官女だから、可愛いと思って抱っこしていたのもオッサンだったみたいだしな、と思っていると、

「紬……」
と王子が呼びかけてきた。

「そこで待っておれ。
 三秒くらいなら、いける気がするっ」

 なにがっ? と思ってる間に、また、タッと王子は居なくなった。

 よく走り去る人だな、と思いながら、葉の隙間から空を見上げ、此処に来たときと同じに少し湿っている空気を吸い込んでいると、
「紬っ」
と声がした。

 相変わらず、声だけイケメン……

 ……ではなかった。

「紬っ!」

 動かない、いつも笑っている口ではない口で、白樺の間から王子がそう呼びかけてくる。

「他の人形はこちらで預かるが、これだけは持っていってくれ。
 私だと思ってっ」

 そう言い、王子はその掌にある小首をかしげたままのお内裏様を差し出してきた。

 それを受け取ろうと近づくと、王子は紬の肩に手を置き、軽く口づけてきた。

「……紬?」
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