押入れから王子が出てきましたよ?
 

 押入れの中は違う空間へと繋がっていた。

 暗い押し入れに入ったつもりが、何故かそこは白樺の林の中で霧が薄く張っていた。

 幻想的だな、と思いながら、紬は白樺の木を見上げる。

 白樺は紬の世界のそれと同じくらいの大きさだった。

「ミニチュアな世界なのかと思ってました」
と言うと、

「莫迦め。
 私の本体は、お前とサイズは変わらん。

 とり憑いたこの人形が小さいだけだ。
 これでどうやって戦えと言うのだっ」
と勝手に人形にとり憑いておいて、王子は文句を言ってくる。

 どうやら、この世界では、戦争のときには、それぞれが人形に入って戦うことになっているらしい。

 だから、みな、優秀な人形師を探しているらしいのだ。

「何故、人形に入って戦うんですか?」

「生身で戦ったら、死ぬではないか」

「……ぬるい世界ですね」
< 6 / 47 >

この作品をシェア

pagetop