会いたいけど、会いたくない
それからしばらくして、うちからほど近い美術館で、私たちの大好きなイラストレーターさんの個展が開かれることが決まった。

「俺、そっちまで行くから、一緒に行こ?」

優也さんには会いたい。

でも、会ったら、この関係が終わってしまう。

どうしよう……

「来月、3日の日曜日はどう? 何か、予定ある?」

予定は……

「ありませんけど……」

でも、会えない。

「じゃ、決まり。11時に美術館の入り口で待ち合わせでいいよね」

私が断りの言い訳を思い付かないでいる間に、話はどんどん決まっていく。

私の中でも、優也さんに会いたい気持ちと、会いたくない気持ちがせめぎ合っていて、はっきりと断る踏ん切りがつかない。



そうしているうちに、約束の3日になった。

私は、この半月、精一杯のダイエットをしたけれど、減ったのはわずか3キロ。

見た目はほとんど変わらない。

それでも、少しでもかわいく見えるように、おしゃれをして、生まれて初めてメイクもしてみた。

だけど、鏡に映る姿は、あの写真とは似ても似つかない。

私は、葛藤しながらも5分前に美術館の正門にやってきた。

でも、そこから中に入る勇気が出ない。

門の陰から覗くと、美術館の入り口に立つ背の高い男性の姿が目に入った。

遠目に見ても、あれが優也さんだろうということは分かる。

分かるけれど、それ以上、中に入ることができない。

どうしよう……

断りの連絡をする?

でも、なんて?

体調が悪いことにする?

今さら?

わざわざ新幹線でこんな遠くまで来てくれたのに、こんなギリギリの時間に?

私は、なかなか決断出来ずに、門の陰から、優也さんを眺めた。

やっぱり、かっこいい……

これで最後なのを覚悟して会いに行ってみる?

でも、どうせ最後にするなら、会わずに綺麗に終わった方がいい?

いろんな思いが駆け巡って、なかなか決断できない。

そうしているうちに、時間はどんどん過ぎて、約束の時間を10分ほど回ってしまった。

入り口に立つ優也さんが、スマホを手にするのが見えた。

あ、私に連絡する気だ。

ここで電話が鳴ったら、見つかっちゃう。

私は、慌ててスマホを取り出すと、マナーモードにした。

その直後、私のスマホが手の中で、鳴動を始める。

間に合って良かった。

私は、その振動するスマホを握り締めながら、ほっと胸を撫で下ろした。


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