腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

じつは……

「じ、じつは……、……してて」

「はい?」

私は鷹峯さんの瞳を見つめたまま、小さく呟く。

「に、妊娠……しました……」

「は……?」

気まずい沈黙。たった数秒のはずなのに、永遠のように長く感じる。

「妊娠……」

私の言葉を反芻。

「はぁ……まったく……」

続いて深い溜息。

私は身を縮ませる。

俯いた私を包み込んだのは、鷹峯さんの温もりだった。


「……妊娠していたならそう言ってください。まったく、貴女って人は……」

温かい。温かくて、安心して、また私の目から次々と涙がこぼれ落ちた。泣き顔を鷹峯さんのワイシャツの胸元に埋める。普段なら汚いって怒られるところだけど、鷹峯さんは黙って腕の力を強めてくれた。

「何か重い病気を私が見逃したのかと……心配していたんですよ?」

「うっ……ぐすっ……だ、だって……捨てられるかと……」

「何言ってるんですか。馬鹿ですか貴女は」

いつもの調子でぴしゃりと一刀両断される。でもその言葉は、『絶対捨てたりなんかしない』という鷹峯さんの気持ちを的確に表しているようで、私は思わず泣き笑いする。

「馬鹿って何ですか……人が真剣に悩んで……っ」

「知ってました? 私がキス出来るのって貴女だけなんですよ」

脈絡もなく、鷹峯さんは真面目な声でそう告げる。言葉の意図が分からず、私は難しい顔で鷹峯さんを見上げる。

「知ってますけど……それが何か」




「結婚しましょうか」





え?




< 102 / 110 >

この作品をシェア

pagetop