腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
私はすぐにそれが理解できなくて、ゆっくりと目を瞬かせる。

「嫌ですか?」

嫌じゃない……嫌なわけない、むしろ。

「私で……良いんですか……?」

本当に?

「当たり前でしょう。聖南が良いんです」

そう言って、鷹峯さんは薄くて形の良い唇を三日月に釣り上げた。

「鷹峯さ……んん……」

その唇が、私の涙で濡れた唇を塞いだ。



〈ようやくゴールインね〉



すっと肩が軽くなる感覚に、私ははっとした。

「え……!?」

「この声……一体どこから……?」

鷹峯さんにも、春夏の声が聞こえている。

間違いない。姿は見えないけど、春夏が今、私の中ではなく私達の目の前にいると分かる。

〈私、あなたのこと心配だったの……。だって、変な男の引っかかってるって最初から分かってたから〉

「え……?」

言っている意味が分からず、私は春夏の言葉の続きを待った。

〈だってあの部屋に内見に来た時、あの男は別の女を連れてきてた。本当はミュージシャンになりたいけど、商社マンって嘘ついてるんだって。馬鹿な女だってあなたのことを(わら)ってた……〉

「そんな……」
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