腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
そこから痛みはどんどん増していって、私は陣痛室のベッドでのたうち回りながら痛みの波を何度も何度もやり過ごした。

「〜〜〜〜っ……腰砕けるぅ〜っ……」

陣痛室は大部屋で、他のベッドにも只今陣痛真っ最中の人がいる。でも誰も大声なんて上げてないし、私だってあまり叫びたくはない。

「うぁっ……、」

でも陣痛という今までに経験したことのないような痛みで、思わず口から悲鳴が漏れそうになる。さっき夕ご飯が運ばれてきたけど、とてもじゃないが食べられるわけがない。

勿体ないと思いつつも、結局一口も食べないまま夕食は下膳されていった。

「はぁっ……た、鷹峯さん、まだ……?」

そう、そうなのだ。あいつマジでどうした? 私は破水した時点ですぐに鷹峯さんに連絡したのに、鷹峯さんからは『分かりました』の一言返事が来たきり。それ以来何の連絡も入れないし、まだ病院に来ないってどういうこと? 心配じゃないの?

もちろん仕事が忙しいことは十分分かっているつもり。でもさ、こんな時くらい、妻を優先してくれたって良いじゃんか……。
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