腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
数時間後、さっそくご丁寧にも取り立てがやって来て、「とりあえず今財布にあるお金だけでも良いから。そしたら支払い期限を延長してあげる」などと言われ、私はなけなしの諭吉様を二枚支払って一度お帰り頂いた。

そして翌日、すぐに警察に相談に行ったものの、何と一円でも支払ってしまうと闇金だろうが勝手に名前を書かれた連帯保証人だろうが支払い義務が発生してしまうと教えられ、闇金関係に強い弁護士事務所へ行くように言われて追い返された。

……日本の法律って、被害者に優しくない。




もはや体調が悪いなんて言っていられなかった。

当然弁護士さんに払えるお金があるわけもなく、私は闇金への返済を覚悟してその日のうちにバイト先を探した。

私は資格もスキルも何もないけれど、選ばなければバイト先なんてたくさんある。

昼は早朝からから夕方までスーパーのレジ打ち、そのあとは夜から深夜まで居酒屋のホールスタッフ、ちなみに夜十時以降は時給アップ。

このシフトで一ヶ月休まずに働けば、下手したらその辺のサラリーマンよりお金を稼げる計算になる。

ここから家賃や住民税やなんかの税金を払って、食費は最低限で済ませて、残りは全部返済に回す。これなら短期間で返済できるはずだ。

あ、そう言えばここの家賃ってどうなってるんだろう? 一人でこんな高級マンションには住めないし、引っ越したばかりだけれど早々に引き払わなければならない。あとで管理会社に電話しないと。


『はい、はい、ああ、1402号室の……。ああ、はい、家賃ですね、もともと鈴白様のご口座で(うかが)っておりますが────……ええ、名義人も鈴白様ですね……はい、え? シャワーが壊れる? ああ〜やはり……いえ、ご主人にはお伝えしたはずなんですけど、そちら……はい、あのですね、心理的瑕疵物件(しんりてきかしぶっけん)でして……ええ、お風呂場の点検口に御札、貼ってあったでしょう? え、なかった? そんなハズないと思いますけどねぇ』


あの男……航大め抜かりなく最初から名義人は元より私の口座を引き落とし先にしていただなんて。しかも聞けば、この部屋は事故物件らしい。

御札? あ、あの時渡されたゴミか!

私達の前に既に何人も別の住人が住んでいるため私達に対する告知義務はないらしく、詳しいことは教えてもらえなかった。

どうやら航大は家賃を安く押さえる代わりにこの部屋を三年契約で借りており、途中で退去すると三年分の家賃を請求されるとのことだった。


ちなみに家賃はこの土地、この間取り、このクオリティで破格の五万円ということもここで初めて発覚。実に相場の三分の一以下だ。

あとで大〇てるで調べた結果、ここに住んでいた水商売の女の人が殺された挙句(あげく)、浴室の点検口へバラバラにして押し込められていた。ちなみに犯人は元恋人のストーカー。痴情(ちじょう)のもつれって怖過ぎる。







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