腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
「なんかすみません……ご迷惑おかけして……」
私は鷹峯さんの開けてくれたドアから助手席に乗り込む。車高の低いツーシーターで、クラシカルなデザインのスポーツカー。
私はマンションまでの道程で、引っ越してから今日までにあった色々なことを鷹峯さんに話して聞かせた。
たぶん、私も一人で抱えるにはいっぱいいっぱいで、誰かに話を聞いて欲しかったんだと思う。
知らない間に追い詰められてたんだろうな。
「ええっと、つまり……婚約者に家財を持ち逃げされた挙句に闇金の肩代わりをさせられ、バイトをかけ持ちしていると……あはは、ドラマみたいですねぇ」
「……いや、笑いごとじゃないです……」
あっという間に車はマンションの地下駐車場に到着し、鷹峯さんはさっと車から降りると当たり前のように私側のドアを開けてくれる。
なんというか、慣れた手つきだなぁ。
そんなことを考えながらエレベーターで最上階へ上がる。途端に、肩にずしりとのしかかるような重い感覚。
なんか、いつもより重いな……。
呼吸が苦しくなり足元が覚束なくなってきて、それに気付いた鷹峯さんが私を支えて一緒に部屋へと上がってくれる。
「……何ですか、この部屋は」
「……だから言ったじゃないですか。彼に家財を持ち逃げされたって」
まるで新居かと思うほどすっからかんの我が家を見て、鷹峯さんが目を瞬かせていた。
「今は地縛霊と二人暮しをしております」
「はぁ? 頭大丈夫ですか」
いやいや、そんなストレートな。
あ、そう言えば鷹峯さん、この部屋のこと知ってるのかな。
「ねぇ鷹峯さん、ここって事故物件だって知ってました? 水商売の女性がバラバラにされて浴室の点検口に遺棄されたんですって」
自分で言っててもう怖い。私は身を震わせながら訊ねるけど、鷹峯さんはことも無げに頷いた。
「はい、もちろん。五年前の新築の時に事件が起きましてねぇ。おかげで築浅なのに物件価値が下がってしまって迷惑してたんですよ」
「……」
ざわり、と室内温度が下がった気がした。この人いくら死人に口なしだからって容赦ない……。一応部屋にまだいると思うから口は慎んで欲しい。
「それにしても、貴女はこんな何もない部屋で連日寝ていたんですか」
鷹峯さんは飽きれているようで、溜息混じりに部屋を見回す。
「寝るって言っても布団もないし、金縛りになるし、ほぼ寝れてません」
「……そりゃあ体調も治らないわけですねぇ」
あ、もう完全に引いてるよこの人。だって仕方ないじゃんか。私だってふかふかの広いベッドでぐっすり眠りたい。
「……あの、鷹峯さん。私を、鷹峯さんのお宅に住まわせてくれませんか?」
気付いたら、口からそんな言葉が漏れ出していた。
……って、はぁ?? 何を考えてるの私は。いくら何でもほとんど関わりのない隣人に、何て厚かましい頼みごとをしているんだろう。
頭ではそう思っているのに、心とは裏腹に口が勝手に動く。
「はい? 何を言って……」
ほら、鷹峯さんだって困ってるじゃん。やめてよ私。まるで口だけ私じゃなくなったみたい。黙って黙って黙って。
「お願い……お願いします、鷹峯さん! こんな何もない部屋で私生きていけないっ……それに体調も悪いし、このまま一人でいたら死んでしまいそうなの……!!」
何だこれ。何を言ってるの私。黙れ黙れ。しかもついには土下座までして鷹峯さんの長い足に縋り付き始めた。
違う。これは私じゃない! 私じゃ────……。
「〈お願いです鷹峯さん! このままじゃ私、成仏できないのっ!!〉」
私は鷹峯さんの開けてくれたドアから助手席に乗り込む。車高の低いツーシーターで、クラシカルなデザインのスポーツカー。
私はマンションまでの道程で、引っ越してから今日までにあった色々なことを鷹峯さんに話して聞かせた。
たぶん、私も一人で抱えるにはいっぱいいっぱいで、誰かに話を聞いて欲しかったんだと思う。
知らない間に追い詰められてたんだろうな。
「ええっと、つまり……婚約者に家財を持ち逃げされた挙句に闇金の肩代わりをさせられ、バイトをかけ持ちしていると……あはは、ドラマみたいですねぇ」
「……いや、笑いごとじゃないです……」
あっという間に車はマンションの地下駐車場に到着し、鷹峯さんはさっと車から降りると当たり前のように私側のドアを開けてくれる。
なんというか、慣れた手つきだなぁ。
そんなことを考えながらエレベーターで最上階へ上がる。途端に、肩にずしりとのしかかるような重い感覚。
なんか、いつもより重いな……。
呼吸が苦しくなり足元が覚束なくなってきて、それに気付いた鷹峯さんが私を支えて一緒に部屋へと上がってくれる。
「……何ですか、この部屋は」
「……だから言ったじゃないですか。彼に家財を持ち逃げされたって」
まるで新居かと思うほどすっからかんの我が家を見て、鷹峯さんが目を瞬かせていた。
「今は地縛霊と二人暮しをしております」
「はぁ? 頭大丈夫ですか」
いやいや、そんなストレートな。
あ、そう言えば鷹峯さん、この部屋のこと知ってるのかな。
「ねぇ鷹峯さん、ここって事故物件だって知ってました? 水商売の女性がバラバラにされて浴室の点検口に遺棄されたんですって」
自分で言っててもう怖い。私は身を震わせながら訊ねるけど、鷹峯さんはことも無げに頷いた。
「はい、もちろん。五年前の新築の時に事件が起きましてねぇ。おかげで築浅なのに物件価値が下がってしまって迷惑してたんですよ」
「……」
ざわり、と室内温度が下がった気がした。この人いくら死人に口なしだからって容赦ない……。一応部屋にまだいると思うから口は慎んで欲しい。
「それにしても、貴女はこんな何もない部屋で連日寝ていたんですか」
鷹峯さんは飽きれているようで、溜息混じりに部屋を見回す。
「寝るって言っても布団もないし、金縛りになるし、ほぼ寝れてません」
「……そりゃあ体調も治らないわけですねぇ」
あ、もう完全に引いてるよこの人。だって仕方ないじゃんか。私だってふかふかの広いベッドでぐっすり眠りたい。
「……あの、鷹峯さん。私を、鷹峯さんのお宅に住まわせてくれませんか?」
気付いたら、口からそんな言葉が漏れ出していた。
……って、はぁ?? 何を考えてるの私は。いくら何でもほとんど関わりのない隣人に、何て厚かましい頼みごとをしているんだろう。
頭ではそう思っているのに、心とは裏腹に口が勝手に動く。
「はい? 何を言って……」
ほら、鷹峯さんだって困ってるじゃん。やめてよ私。まるで口だけ私じゃなくなったみたい。黙って黙って黙って。
「お願い……お願いします、鷹峯さん! こんな何もない部屋で私生きていけないっ……それに体調も悪いし、このまま一人でいたら死んでしまいそうなの……!!」
何だこれ。何を言ってるの私。黙れ黙れ。しかもついには土下座までして鷹峯さんの長い足に縋り付き始めた。
違う。これは私じゃない! 私じゃ────……。
「〈お願いです鷹峯さん! このままじゃ私、成仏できないのっ!!〉」