腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
何だかその言葉にどきりとする。いや、意味は分かってるつもりだけど、なんかこう、鷹峯さんが言うといちいち色っぽく聞こえるというか……。

「あ、今やらしいこと考えましたか?」

「ソ、ソンナコトナイデスヨ!?」

いけない、動揺が声音(こわね)に現れてしまっている。

私はココアを飲み干すと、慌てて洗面所へ行き歯磨きを済ませた。

「さぁ、寝ましょう鷹峯さん、おやすみなさい!」

「ふふ、おやすみなさい」

左右反転してるけど部屋の作りはわが家と一緒の1LDK。私は当たり前のように寝室側のスライドドアを開け、そして固まる。

「どうしました? さぁ、ベッドに入って下さい」

「……」

当たり前だけど、鷹峯さんは一人暮らしだからベッドは一つしかない。私はくるりと寝室に背を向ける。

「あ、あの……私はソファで……」

「まさか。病人をそんな所で休ませられませんよ。ベッド、広いから良いでしょう? 端と端で寝れば」

確かに広い。これがキングサイズというやつ? 初めて見た。だけど問題はそこじゃない。

鷹峯(たかがみね)さんとベッドインよ! 聖南(せいな)、下着の準備はOK!?〉

「ベッドインじゃない! イン ベッド! 鷹峯&私 イン ベッド!!」

「急な独り言は怖いのでやめてください」

汚いものでも見るみたいな視線を向けながら、鷹峯さんはさっさとベッドに入ってしまう。仕方ないので私も反対の隅っこに横になる。

「心配しなくても手は出しませんから、安心してお休み下さい。女性には困っていませんので」

「あ、あはは……そうですか……」

確かに、こんな格好良くてモテそうな人が私みたいな中肉中背の偏差値五十女を相手にするわけがないか。

それに久々にベッドで眠れることが嬉しいのも確かだ。

〈はぁ!? ちょっとあんた信じらんない! 夜這(よば)いかけるわよ!〉

「うるさいっ!」

「っ!?」

こうして、私とそれから取り憑いた幽霊女の春夏は、鷹峯さんと奇妙な同棲生活を送ることになった。












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