腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
「おはようございます」
「んぁ……お、おはよう、ございます……」
半分寝たまま、反射的に返事を返す。
目が覚めると、私の顔を覗き込んでいる爽やかイケメンの笑顔。うーん、これは朝っぱらから顔面にレモンサワーをぶっかけられた気分。
そうか、私、鷹峯さんと暮らすことになったんだっけ……。
「体調は?」
鷹峯さんが訊ねる。
「ん……まだまだダルいですけど、久々にベッドで寝たのですっきりしている気がします」
「そうですか。それは良かった」
リビングの方からトーストとコーヒーの良い香りが漂っている。ここ最近まともに働いていなかった胃腸が、その匂いに反応してきゅるりと小さくなる。
「栄養状態の改善には食べることが一番ですからね。貴女も食べられるだけで良いので食べて下さいね」
鷹峯さんの席にはトーストとブラックコーヒー。私のところにはトーストとヨーグルトとココアが置かれている。
あれ、私の方が品数多い。鷹峯さん、ヨーグルトなんて食べないだろうにわざわざ私の分を用意してくれたんだ。
「うわ……なんかすみません……いただきます……」
二人で向かい合ってテーブルに着き、私は一口ココアを啜る。そして焼きたてのトーストにバターを塗って、恐る恐る口に運んだ。
「ん……美味しい……」
香ばしい小麦と発酵バターの香りが口に広がり、これは紛れもなく高級食パンと高級バターであることが分かった。
でも美味しいのは、単純に高級品だからってだけではない。
「うっ……ぐす……」
何だか、心が温かくなって、ものすごく泣けてきてしまった。
いつぶりだろう。人の優しさが温かい。自分以外の人が作ってくれたごはんが美味しい。
思えば最近はずっと気を張っていたんだと思う。全部一人で頑張ってどうにかしないといけないと、無意識に自分を追い込んでいたんだろう。
「ご、ごめんなさいっ……涙、止まらないっ……」
つい最近までは、一生を添い遂げると決めた相手がいた。幸せになるはずだった。でも、相手はそうは思っていなかった。
いろんな思いが溢れて、それが涙となって零れ出した。
「おやおや、何だか情緒が不安定ですねぇ」
鷹峯さんは飽きれたような、可笑しそうな、どこか優しい笑みでコーヒーを口にしていた。
「うっ……私……母に申し訳ないですっ……」
私は昨年亡くなったお母さんのことを話して聞かせた。
私は航大に裏切られてからずっと、お母さんを裏切ったような気分だった。花嫁姿を見せられなくて、それでも幸せになれば、空から見ているお母さんが安心すると思っていた。それなのに。
泣きじゃくる私の話を、鷹峯さんは黙って聞いてくれる。
「ぐすっ……泣いてたらダメですよね……私、早く元気になって、借金返して、航大を見返せるくらい幸せになりますからっ……!」
最後には私は笑顔になって、鷹峯さんにそう宣言した。
「ポジティブなのは良いことです。では、朝食を終えたらさっそく身体を調べさせて下さいね」
私の話を聞き終えると、鷹峯さんはそう言ってにんまりと口角を釣り上げた。
「んぁ……お、おはよう、ございます……」
半分寝たまま、反射的に返事を返す。
目が覚めると、私の顔を覗き込んでいる爽やかイケメンの笑顔。うーん、これは朝っぱらから顔面にレモンサワーをぶっかけられた気分。
そうか、私、鷹峯さんと暮らすことになったんだっけ……。
「体調は?」
鷹峯さんが訊ねる。
「ん……まだまだダルいですけど、久々にベッドで寝たのですっきりしている気がします」
「そうですか。それは良かった」
リビングの方からトーストとコーヒーの良い香りが漂っている。ここ最近まともに働いていなかった胃腸が、その匂いに反応してきゅるりと小さくなる。
「栄養状態の改善には食べることが一番ですからね。貴女も食べられるだけで良いので食べて下さいね」
鷹峯さんの席にはトーストとブラックコーヒー。私のところにはトーストとヨーグルトとココアが置かれている。
あれ、私の方が品数多い。鷹峯さん、ヨーグルトなんて食べないだろうにわざわざ私の分を用意してくれたんだ。
「うわ……なんかすみません……いただきます……」
二人で向かい合ってテーブルに着き、私は一口ココアを啜る。そして焼きたてのトーストにバターを塗って、恐る恐る口に運んだ。
「ん……美味しい……」
香ばしい小麦と発酵バターの香りが口に広がり、これは紛れもなく高級食パンと高級バターであることが分かった。
でも美味しいのは、単純に高級品だからってだけではない。
「うっ……ぐす……」
何だか、心が温かくなって、ものすごく泣けてきてしまった。
いつぶりだろう。人の優しさが温かい。自分以外の人が作ってくれたごはんが美味しい。
思えば最近はずっと気を張っていたんだと思う。全部一人で頑張ってどうにかしないといけないと、無意識に自分を追い込んでいたんだろう。
「ご、ごめんなさいっ……涙、止まらないっ……」
つい最近までは、一生を添い遂げると決めた相手がいた。幸せになるはずだった。でも、相手はそうは思っていなかった。
いろんな思いが溢れて、それが涙となって零れ出した。
「おやおや、何だか情緒が不安定ですねぇ」
鷹峯さんは飽きれたような、可笑しそうな、どこか優しい笑みでコーヒーを口にしていた。
「うっ……私……母に申し訳ないですっ……」
私は昨年亡くなったお母さんのことを話して聞かせた。
私は航大に裏切られてからずっと、お母さんを裏切ったような気分だった。花嫁姿を見せられなくて、それでも幸せになれば、空から見ているお母さんが安心すると思っていた。それなのに。
泣きじゃくる私の話を、鷹峯さんは黙って聞いてくれる。
「ぐすっ……泣いてたらダメですよね……私、早く元気になって、借金返して、航大を見返せるくらい幸せになりますからっ……!」
最後には私は笑顔になって、鷹峯さんにそう宣言した。
「ポジティブなのは良いことです。では、朝食を終えたらさっそく身体を調べさせて下さいね」
私の話を聞き終えると、鷹峯さんはそう言ってにんまりと口角を釣り上げた。