腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
二週間の入院期間を()て、貧血も少しは改善したこともあり私は無事退院となった。勤務終わりの鷹峯さんが車に乗せてくれて、一緒に家へと帰ることにする。

お医者さんの中でも診断に特化した総合内科医という鷹峯さんは、結局原因を突き止められなかったことにちょっと……いやだいぶ、悔しそうな顔をしていた。

「……やはり精神疾患が疑わしいですね。専門外なので紹介状を……」

「いやいやいやいやちょっと待って下さい! 本当に幽霊なんですって!!」

「いるんですよねぇ……そういう患者さん……」

「もぉーーーーーっ!!」

お医者さんという仕事柄なのか非科学的なことが信じられないらしい鷹峯さん。そんな哀れみの目でこっち見ないで。前見て運転して。

〈うふふ、証拠を見せてあげましょうか?〉

「できるのっ?」

「……」

突然春夏が話しかけてきて、思わず大きな声で返事をした私に鷹峯さんが引いている。でも本当に証明できるならぜひともお願いしたい。

「いいですか、しかと聞いてくださいね……? ごほん。〈鷹峯さん、五年前の私の記憶によると、あなたにはセフレが五人いました。一人目は金髪の外国人、二人目は色白でロングヘアのロリ巨乳、三人目はスラリと背の高いモデル風、四人目はボディピアスと刺青の年上、五人目は黒髪ショートカットのインテリ系よ〉……と、霊が言っています。合ってますか!?」

私の声を借りて、春夏が得意気に淀みなく告げる。鷹峯さんがみるみる渋い顔になっていくのが何だか面白い。

「……たしかに合っていますね……それは、中の女性が?」

あのいつも自信満々でちょっと胡散臭いにんまり顔の鷹峯さんをこんなにさせるなんて! 何だかスカッとする。春夏ナイス!

「はい、そうですよ〜。なんでも、生前から鷹峯さんがよく女の人を連れ込んでるのを観察していたそうで。……ていうか、(ただ)れた生活してますね、鷹峯さん……」

そういえば女性には困ってないとか何とか言ってたな。イケメンとはいえ本当に困ってなさすぎて一周回っておもしろい。

「そうですかぁ? お互いに割り切った関係ですし……というか、少なくとも貴女の元婚約者よりマシなのでは? 私は女性に暴力振るったりしません」

「うっ……ぐ、ぐうの音も出ないです……」

ずばりと言われ、私は返す言葉もない。そんな話はさておき、鷹峯さんはハンドルを握ったまま何か考え込む。

「ふむ……とはいえ、確かに貴女の知らないはずのことを言い当てられてしまいました。科学的には有り得ないことですが……」

科学では証明できないことがあるんですねぇ……としみじみ呟いている鷹峯さん。これはもしかして、信じてもらえた?

「分かりました。こうなったら貴女に取り憑いた幽霊を成仏させることが治療、ということですね。しばらく恋人ごっこをすれば満足するんですか?」

「〈ええ、もちろん毎日キスとセックスよっ!〉」

「ぶふっ……!?」

一人二役みたいになってるけど、もちろん最初の言葉は私のものじゃない。

ていうか何口走っているの私。いや私じゃないけども。そりゃ婚約者に酷い裏切り方されて人肌寂しいのはあるけども!!

恐る恐る鷹峯さんの方を向くとめちゃくちゃ苦笑いしてた。

「それは困りましたねぇ。セックスは別に毎日でも構いませんけど、いかんせん私は潔癖症なので。キスは絶対無理です」

「〈はぁっ!? 何でよ! 人のこと汚いとでも言いたいわけぇ!?〉」

「ちょっ……やめてよ、事故るっ……!」

身体が勝手に運転席の鷹峯さんの腕に掴みかかる。私は二人羽織(ににんばおり)してるみたいに自分で自分の腕を止める。

「当たり前でしょう。口腔内(こうくうない)には二千億もの細菌がいるんですよ。同じ理由で野外セックスとアナ」

「良いです言わなくてっ!! 私もそれは無理ですからっ!!」

いや、それはつまりノーマルなプレイならOKってわけではなくて。二人きりの空間だからってアブノーマルなプレイをそんな大っぴらに口にしないで欲しい。
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