腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
私達がそんなやり取りをしている間に、鷹峯さんが運転する車はマンションの地下駐車場に到着した。駐車スペースに車を停めると、直通のエレベーターで最上階の十四階へと上がる。
「っ……!?」
エレベーターから降りると、私の家のインターホンを連打する男が見えた。私は咄嗟に鷹峯さんの陰に隠れる。何かを察したのか、鷹峯さんも私を隠すようにして立ち止まってくれた。
「いるのは分かってるんですよぉ、鈴白さぁん!!」
男がドアに向かって叫ぶ。
……いや、全然分かってないじゃん! ハッタリもいいところだっ!
「……あれは?」
「借金取りです……たぶん……」
男はインターホン連打を止めたかと思うと、今度は直接ドアを乱暴に叩き始めた。それでも誰も出てこないのを見て、最後にドアをバンッと蹴った。
「……チッ、あの女居留守なんか使いやがって……」
使ってないよ、本当に誰もいないから!
とは突っ込めない。
男がこちらに歩いてくるものだから、私は慌てて壁の方を向くけどこれじゃものすごく不自然だ。
どうしよう……。
焦る私の上に、長身の鷹峯さんが壁に手をついて私を隠すように覆い被さった。
端正な顔が降ってきて、キスするんじゃないかと思うくらいに距離が近付く。切れ長の鋭い瞳がきらりと金色に光って見える。
「……こっちを向いて。私の首に腕を回して下さい」
言われるがまま、私は思い切り背伸びをして鷹峯さんの首に抱きつく。鷹峯さんの片手が、私の後頭部を引き寄せる。胸から下がぴたりと密着し、ばくんばくんと心臓が物凄い音を立てる。
鷹峯さん、良い匂いだ……。
唇が触れてしまいそう。私は思わずぎゅっと目を瞑る。
「おいっ、こんなとこでイチャついてんじゃねーぞクソがっ!」
こちらにやって来ていた男は、通りすがりに悪態をつきながらエレベーターに乗り込んで下に降りてしまった。
「ふぅ……危なかったですね」
「し、心臓がっ……」
色んな意味の緊張でクラクラして思わずしゃがみ込んでしまった私を、鷹峯さんがにんまり笑顔を浮かべながら抱き上げてくれた。
ん? だ、抱き上げ……?
「た、鷹峯さん、これはっ……」
これは、俗に言うお姫様抱っこというやつでは!? くっ……この男、次から次へと……さ、さすがセフレが五人もいるだけあってめちゃくちゃ慣れていらっしゃる!
「貴女は病人でしたね。いやぁ〜すみません、すっかり忘れていました。ちょっと刺激が強かったですか?」
刺激が強いどころじゃないよ。マジで殺す気なの? こんなの誰だって一撃ノックアウトだ。
〈いやぁ〜ん鷹峯さんかっこいい〜抱いてぇ〜!〉
頭の中の春夏も大興奮だ。きっと鼻血か涎を垂らしているに違いない。
そのまま鷹峯さんの部屋に行くと、手洗いどころかお風呂場直行を命じられる。そして部屋着に着替えるまでは寝室に入ってはいけない。これがこの家で生活するためのルールのひとつ。
お互いにシャワーを浴びてリビングのテーブルにつくと、鷹峯さんが自分用のコーヒーと私用のココアを淹れて目の前に置いてくれる。
「ありがとうございます」
一口飲むと、優しい甘さとほろ苦さが口の中に広がって心地良い眠気がやってくる。
ここ最近、病院とはいえ毎日ベッドで眠れていたし、春夏も身体を貸す代わりに金縛りをやめてくれた。入院中、鉄剤を点滴してもらい貧血も少しは改善したので大分調子が良い。
思わず惚けた顔でふと前を見ると、鷹峯さんが頬杖をついたままニコニコとこちらを見つめている。
仕事中はスーツに白衣を羽織っていたけど、今はラフなTシャツ姿。そのギャップがなんかエモい。
そして当たり前なんだけど、病院で鷹峯さんは「鷹峯先生」と呼ばれていた。なんか格好良い。
「っ……!?」
エレベーターから降りると、私の家のインターホンを連打する男が見えた。私は咄嗟に鷹峯さんの陰に隠れる。何かを察したのか、鷹峯さんも私を隠すようにして立ち止まってくれた。
「いるのは分かってるんですよぉ、鈴白さぁん!!」
男がドアに向かって叫ぶ。
……いや、全然分かってないじゃん! ハッタリもいいところだっ!
「……あれは?」
「借金取りです……たぶん……」
男はインターホン連打を止めたかと思うと、今度は直接ドアを乱暴に叩き始めた。それでも誰も出てこないのを見て、最後にドアをバンッと蹴った。
「……チッ、あの女居留守なんか使いやがって……」
使ってないよ、本当に誰もいないから!
とは突っ込めない。
男がこちらに歩いてくるものだから、私は慌てて壁の方を向くけどこれじゃものすごく不自然だ。
どうしよう……。
焦る私の上に、長身の鷹峯さんが壁に手をついて私を隠すように覆い被さった。
端正な顔が降ってきて、キスするんじゃないかと思うくらいに距離が近付く。切れ長の鋭い瞳がきらりと金色に光って見える。
「……こっちを向いて。私の首に腕を回して下さい」
言われるがまま、私は思い切り背伸びをして鷹峯さんの首に抱きつく。鷹峯さんの片手が、私の後頭部を引き寄せる。胸から下がぴたりと密着し、ばくんばくんと心臓が物凄い音を立てる。
鷹峯さん、良い匂いだ……。
唇が触れてしまいそう。私は思わずぎゅっと目を瞑る。
「おいっ、こんなとこでイチャついてんじゃねーぞクソがっ!」
こちらにやって来ていた男は、通りすがりに悪態をつきながらエレベーターに乗り込んで下に降りてしまった。
「ふぅ……危なかったですね」
「し、心臓がっ……」
色んな意味の緊張でクラクラして思わずしゃがみ込んでしまった私を、鷹峯さんがにんまり笑顔を浮かべながら抱き上げてくれた。
ん? だ、抱き上げ……?
「た、鷹峯さん、これはっ……」
これは、俗に言うお姫様抱っこというやつでは!? くっ……この男、次から次へと……さ、さすがセフレが五人もいるだけあってめちゃくちゃ慣れていらっしゃる!
「貴女は病人でしたね。いやぁ〜すみません、すっかり忘れていました。ちょっと刺激が強かったですか?」
刺激が強いどころじゃないよ。マジで殺す気なの? こんなの誰だって一撃ノックアウトだ。
〈いやぁ〜ん鷹峯さんかっこいい〜抱いてぇ〜!〉
頭の中の春夏も大興奮だ。きっと鼻血か涎を垂らしているに違いない。
そのまま鷹峯さんの部屋に行くと、手洗いどころかお風呂場直行を命じられる。そして部屋着に着替えるまでは寝室に入ってはいけない。これがこの家で生活するためのルールのひとつ。
お互いにシャワーを浴びてリビングのテーブルにつくと、鷹峯さんが自分用のコーヒーと私用のココアを淹れて目の前に置いてくれる。
「ありがとうございます」
一口飲むと、優しい甘さとほろ苦さが口の中に広がって心地良い眠気がやってくる。
ここ最近、病院とはいえ毎日ベッドで眠れていたし、春夏も身体を貸す代わりに金縛りをやめてくれた。入院中、鉄剤を点滴してもらい貧血も少しは改善したので大分調子が良い。
思わず惚けた顔でふと前を見ると、鷹峯さんが頬杖をついたままニコニコとこちらを見つめている。
仕事中はスーツに白衣を羽織っていたけど、今はラフなTシャツ姿。そのギャップがなんかエモい。
そして当たり前なんだけど、病院で鷹峯さんは「鷹峯先生」と呼ばれていた。なんか格好良い。