腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
……って、ダメダメ。春夏じゃあるまいし私まで何を考えているんだ。大失恋したばっかりなのに。

「私、明日からはできる限り家事も頑張りますね。バイトも、予定通り再開しても良いですよね?」

私の質問に、鷹峯さんは悩ましげに顎に手をやる。

「そうですねぇ……家事はできる範囲でやっていただけたら私も有難いですが……。バイトは時間を短縮して下さい。居酒屋は辞めて昼間のレジ打ちだけ、週に三日は休暇を取りましょう」

「ええっ!? いやでも……それだと収入が半額以下に……」

鷹峯さんの提案に、私は抗議した。鷹峯さんと違って、私はかなり緊迫した状況の金コマ女なんです……。

「身体の方が大事でしょう。それに貴女は闇金の取り立てに狙われていて、夜に出歩くのは危険。スーパーへの行き帰りもタクシーを利用して下さい。私が迎えに行ける時は行きますから」

まるで私の心情を読んだかのような返答。有無を言わさないという調子の鷹峯さんに、私はぐぬぬと口篭(くちごも)る。

確かに(かくま)っていただいている身で、鷹峯さんまで闇金業者の奴らに目を付けられたりしたら申し訳なさ過ぎる。

医者と暮らしているなんてバレたら、絶対鷹峯さんにも迷惑がかかるに決まっているし。

「分かりました……とにかく、不束者(ふつつかもの)ですがよろしくお願いします」

言ってから気付いた。これって結婚の時の挨拶だった。

「ふふ、はい。よろしくお願いします」

鷹峯さんはそんなIQ3くらいの私の挨拶を、笑って聞き流してくれた。











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