腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

今日から

イケメンドクターと夢の同棲生活♡

なんて、現実はそんなに生易(なまやさ)しいものじゃない。

「はい、やり直しです」

「ええ!? こんなに綺麗なのに!? 昨日もそう言われたから今日は超頑張ったんですけど!!」

鷹峯さんが帰ってくるまでに、私は毎日張り切って家事をこなした。

バイトも再開してヘトヘトだし、体調も戻りきっていない中だいぶ頑張っている。それなのに。

「ここ、埃残ってますよ」

鷹峯さんは部屋の角のフローリングの僅かな(ちり)を、眉間にシワを寄せて顎でしゃくった。

最初に潔癖症と聞いてはいたけれど、鷹峯さんのそれはかなりのものだ。彼はしょっちゅういたるところを掃除しているし、手洗いやアルコール消毒も頻繁。それでも手荒れどころか爪の先まで女の私より綺麗なんだから逆にすごい。

そのため家には手指消毒用のアルコール製剤やら拭き掃除用の除菌シートなどがたくさんストックされていたのにはちょっと引いた。

「小姑ですかあなた。私は四角い角を丸く掃くタイプなんです」

「綺麗好きなだけですが。そんなことを自慢気に言わないで下さい」

それに。と鷹峯さんは続ける。

「これ、出しっぱなしですけど?」

「ぎゃああああああ!!!!」

鷹峯さんがリビングのソファからひょいっと拾い上げたもの。それは何を隠そう、私のブラジャーとパンツ。あとで畳もうと思っていてすっかり忘れていた洗濯物の一つだ。

洋服をしまっていた衣装ケースを持ち逃げされてからと言うもの、コインランドリーから持ち帰った服たちはそのままカゴから直接取って身に付けていたからすっかり畳むなんてしなくなっていた。

私は慌てて鷹峯さんの手から下着を取り返す。

「ち、違うんです……これは、これは……」

しかも上下ともたっぷりレースがあしらわれていて、パンツは紐パンTバック。色は毒々しい紫。いわゆる勝負下着と呼ばれるやつ。

何も違うことはないんだけど、こんないやらしい下着が趣味だと思われるのはなんだか不服だ。これは断じて私の趣味なんかじゃなく、あの最低男、航大(こうだい)の趣味だ。前にデートした時、航大がどうしても身につけて欲しいと頼んできたから買ったやつ。

「あの男!! あんな酷いことしといてまだ私のことを(はずかし)める気だなんて! 許すまじ!!」

「いや、自業自得でしょう」

私は自分の失態を棚に上げて航大に罵声を浴びせる。

「良いじゃないですか、実に機能的で。こういう形状のものはとても脱がせやすいですから」

そう言いながら、鷹峯さんの視線がすっと下に向く。

「もしかして今日も履いてるんですか? ぜひ、今夜のお相手を願いたいですねぇ……ふふ」

「ひぇっ……!?」
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