腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
「何であんなことしたのよ……」
私はソファの背もたれに寄り掛かりながら、春夏を低い声で咎めた。
〈てへ、だぁってどうしてもチューしたかったんだもん〉
だもん、じゃないよまったく。
〈でもでもぉ、あんただってドキドキしたでしょ?〉
「そりゃするよ! ドキドキし過ぎて心臓止まるかと思った……!」
一瞬だけ触れた唇……柔らかかったな……。
……って私はおっさん? なんか勝手にドキドキしちゃってバカみたい。それよりも本当に申し訳ない。あとでちゃんと鷹峯さんに謝らなきゃ。
いやでも、鷹峯さんの驚いた顔。あれはあれで見ものだったな……そしてどんな時も崩れない圧倒的高偏差値なご尊顔。
「そりゃドキドキしちゃうよ……しない方が無理……。だって普通にカッコイイもん……」
「誰が格好良いんですか?」
「うぎゃあっ!!」
突然声を掛けられ、私は色気のない悲鳴を上げる。
「何ですかその変な声は」
帰ってきた鷹峯さんの手には、マンションのすぐ側にあるドラッグストアの袋が下げられていた。
「見せて下さい。動かないようにちゃんと固定しますから」
言われるがまま右手を差し出すと、鷹峯さんは私の腫れた手首にサポーターを当て、それから器用に固定用の包帯を巻いてくれる。
「うわ、上手ですね鷹峯さん」
お医者さんとはいえ、鷹峯さんは内科の先生だ。包帯を巻くことなんてほとんどないはずなのに、随分と慣れた手つきなように思えた。
「私、今は内科医ですけど元々外科にいたので。このくらいならブランクがあっても身体が覚えているんですよ」
へぇ、そういうもんなのか。お医者さんの世界はよく分からないけど、外科も内科もいけちゃう鷹峯さんはやっぱりきっと凄いんだと思う。
「さて、これでOKですよ」
「あ、ありがとうございます」
しっかり固定してもらうと、痛みはあまり感じなかった。
「あの……さっきはすみませんでした。春夏がしたこととは言え……キ、キス……したりして……」
私は鷹峯さんに向き直り、ぺこりと頭を下げる。
「ああ、いえ……。潔癖症というのもありますが、昔はよく、ああやって強引にキスされることも多くて、ちょっとトラウマになっていまして……こちらこそ、突き飛ばしたりして怪我までさせて、すみません」
聞けば鷹峯さんは、子どもの頃ずっと外国で暮らしていたらしい。向こうの女性は幼い頃から積極的なのだと、鷹峯さんは苦く笑った。
「ところで……貴女、入浴まだでしたよね? その手で入れますか?」
鷹峯さんは小首を傾げて尋ねる。その仕草も何だか色っぽくて、顎にかけた細長い人差し指が悩ましい。
とか考えている場合じゃない。
「あ〜まだでした……まぁ、片手で頑張れば何とか……ちょっと行ってきますね」
片手しか使えないものは仕方がない。私は脱衣所に行って服を脱ぎ始める。でも利き手が使えないというのは、思った以上に不便だった。
「ん? あれ? あ、これ後ろボタンになってて……あれ、ちょっと待って絡まった」
私はソファの背もたれに寄り掛かりながら、春夏を低い声で咎めた。
〈てへ、だぁってどうしてもチューしたかったんだもん〉
だもん、じゃないよまったく。
〈でもでもぉ、あんただってドキドキしたでしょ?〉
「そりゃするよ! ドキドキし過ぎて心臓止まるかと思った……!」
一瞬だけ触れた唇……柔らかかったな……。
……って私はおっさん? なんか勝手にドキドキしちゃってバカみたい。それよりも本当に申し訳ない。あとでちゃんと鷹峯さんに謝らなきゃ。
いやでも、鷹峯さんの驚いた顔。あれはあれで見ものだったな……そしてどんな時も崩れない圧倒的高偏差値なご尊顔。
「そりゃドキドキしちゃうよ……しない方が無理……。だって普通にカッコイイもん……」
「誰が格好良いんですか?」
「うぎゃあっ!!」
突然声を掛けられ、私は色気のない悲鳴を上げる。
「何ですかその変な声は」
帰ってきた鷹峯さんの手には、マンションのすぐ側にあるドラッグストアの袋が下げられていた。
「見せて下さい。動かないようにちゃんと固定しますから」
言われるがまま右手を差し出すと、鷹峯さんは私の腫れた手首にサポーターを当て、それから器用に固定用の包帯を巻いてくれる。
「うわ、上手ですね鷹峯さん」
お医者さんとはいえ、鷹峯さんは内科の先生だ。包帯を巻くことなんてほとんどないはずなのに、随分と慣れた手つきなように思えた。
「私、今は内科医ですけど元々外科にいたので。このくらいならブランクがあっても身体が覚えているんですよ」
へぇ、そういうもんなのか。お医者さんの世界はよく分からないけど、外科も内科もいけちゃう鷹峯さんはやっぱりきっと凄いんだと思う。
「さて、これでOKですよ」
「あ、ありがとうございます」
しっかり固定してもらうと、痛みはあまり感じなかった。
「あの……さっきはすみませんでした。春夏がしたこととは言え……キ、キス……したりして……」
私は鷹峯さんに向き直り、ぺこりと頭を下げる。
「ああ、いえ……。潔癖症というのもありますが、昔はよく、ああやって強引にキスされることも多くて、ちょっとトラウマになっていまして……こちらこそ、突き飛ばしたりして怪我までさせて、すみません」
聞けば鷹峯さんは、子どもの頃ずっと外国で暮らしていたらしい。向こうの女性は幼い頃から積極的なのだと、鷹峯さんは苦く笑った。
「ところで……貴女、入浴まだでしたよね? その手で入れますか?」
鷹峯さんは小首を傾げて尋ねる。その仕草も何だか色っぽくて、顎にかけた細長い人差し指が悩ましい。
とか考えている場合じゃない。
「あ〜まだでした……まぁ、片手で頑張れば何とか……ちょっと行ってきますね」
片手しか使えないものは仕方がない。私は脱衣所に行って服を脱ぎ始める。でも利き手が使えないというのは、思った以上に不便だった。
「ん? あれ? あ、これ後ろボタンになってて……あれ、ちょっと待って絡まった」