腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
なんということでしょう。

どんくさい私は、服のボタンが外せず中途半端に身体に服をひっかけたまま、にっちもさっちもいかなくなった。

「うわぁ〜ん鷹峯さぁ〜ん! 助けてください〜っ!」

無理矢理脱ごうとすると手首が痛い。まだ下は履いたままだし、服の下にはブラの上にキャミソールも着ているし……。私は観念して鷹峯さんを呼ぶ。

鈍臭(どんくさ)いわね……あんた……〉

「分かってるよぉ〜っ!」

二十八のいい歳した大人が何て情けないんだ……。そうは思っても、こうなったのは元々春夏が鷹峯さんにキスなんてしたからだ。私は悪くない。

「ちょっと……何やってるんですか。子どもですか貴女は」

「鷹峯さぁ〜ん……!」

まさに救世主。来てくれてありがとう。めちゃくちゃ飽きれた顔してるけど私はこの際気にしない。

「ほら、こっち向いて。ああ、ここのボタンですか……はい、手抜いて」

鷹峯さんは絡まっている私の服をするすると脱がせてくれる。ん? 何か人の服を脱がすのがえらく上手い気がするけど、まぁうん。深く追求するのはやめよう。

「〈ああん、鷹峯さん。お風呂も一人で入れる気がしないわぁ。手伝ってくれない?〉」

……こらこらこらこらぁ。

何言ってるのよ春夏。唐突(とうとつ)に身体を乗っ取るのやめてくれ。

「……すみません鷹峯さん、今のはなんでもないです」

ていうか、私そんな喋り方じゃないし幽霊の戯言(ざれごと)だよ。うん、本当にお気にならさず……。

「ええ、もちろん。手伝って差し上げますよ?」

「えっと……はい?」

私は思わず耳を疑う。

「元々は私のせいで怪我をさせてしまいましたし、そのくらいさせて頂きませんと」

いえいえ、して頂かなくて結構です。

そう思うのに、私が何か口を開く前にあれよあれよと服を脱がされる。ちょ、本当に脱がすの上手いな! 悪いお代官様(だいかんさま)かっ!

「ま、待って待って! せめて目は(つむ)って! バスタオル貸して下さいっ……!」
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