腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
「んん〜! これもおいひい〜!!」

内装と同じように、和洋を散りばめたオリジナリティ溢れる創作料理はどれも本当に美味しかった。

鷹峯さんが予約の時に口添えしてくれていたようで、一品一品が一口ずつの量で次々に運ばれてくる。たぶん、私があまり食べられないことに配慮してくれたんだろう。





「鷹峯先生、本日はありがとうございました。料理はお口に合いましたでしょうか?」

私がデザートを頬張っていると、ギャルソンとは別の男性がやって来て丁寧に頭を下げた。私とそう歳の変わらなそうな男性だけど、ネームプレートに刻まれた『オーナー』の文字に私は目を見開く。

「いえ、こちらこそ急な予約なのに、対応して頂きありがとうございます」

鷹峯さんがにこやかに会釈する。

「お連れの方も、ありがとうございます。いつも鷹峯先生にはお世話になっております」

「い、いえいえ! 私なんて挨拶する価値はないのでっ……」

ああ、テンパり過ぎておかしなことを口走ってる。でもオーナーの男性は、そんな私にも引くことなく柔和な笑みを浮かべてくれた。

「それにしても、先生が女性を連れてくるなんて……初めてじゃないですか?」

「え、そ、そうなんですか……?」

そんなこと聞いたら、勘違いしてしまいたくなる。

「ふふ、こんな良い店、あまり知り合いには教えたくありませんからね。あ、赤もう一本貰えますか?」

「ええ、もちろん」

鷹峯さんはワイングラスを軽く持ち上げておかわりを要求した。

ていうか一杯じゃなくて一本……鷹峯さん、本当にザルだな。こういうお店はガバガバ飲むところじゃないと思うのですが。

でも、美味しそうに飲んでいる鷹峯さんを見ると、私もほんのちょっと味見したくなる。

「私も……一杯だけ、飲んでも良いですか?」

ダメ元でおねだりしてみると、鷹峯さんは仕方なさそうにボトルに残っていたワインをグラスに注いでくれた。

「仕方ないですねぇ。これだけにしておいて下さいよ?」

「はぁい。ありがとうございます〜」

グラスを手に取ると、鷹峯さんも持っていたそれをこちらに傾けてくる。

「乾杯」

「か、乾杯」
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