腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
「そ、そうだったんですかっ……あの時はすみません! 私、失礼な態度をっ……」

相手は、あの時会話もそこそこにカーテンを閉めてしまったことを何やら必死に謝っていた。ちょうどその時、スマホのバイブレーションが振動して着信を知らせる。

相手は鷹峯さんだった。

「あ、もしもし、鷹峯さん? 受診の結果……あ〜、ぼちぼちでんなぁ、なんちゃって。あはは」

「えっ……鷹峯さん……?」

鷹峯さんが私の受診結果を心配して電話をくれた。ついでに、今日はちょっと遅くなるので夕飯はいらない、という事務的な連絡。

通話を切ると、目の前の女の子は不思議そうに首を傾げていた。

「ああ、あなたも確か、鷹峯さんの患者さんですよね」

「え……じゃあやっぱり、鷹峯さんって鷹峯先生のことなんですかっ?」

女の子は驚いたように大きな目をさらに見開いた。一患者である私が、何故鷹峯さんと連絡を取り合っているのかと驚いているのだろう。

しかも『鷹峯先生』ではなく『鷹峯さん』と呼んでいるのも、関係に疑問を持たれる原因かもしれない。

「あの……つかぬことを伺いますが、鷹峯先生とはどういった……?」

女の子は控えめに、けれど興味津々なのを隠しきれない様子でそう聞いてきた。大人しそうに見えるけど、案外好奇心旺盛なタイプなのかもしれない。

「あ! 私は別に、セフレの一人とかじゃないですからね!?」

「セっ……!? わ、私は別にそんなつもりで聞いたわけじゃっ……!」

セフレというワードに、女の子はまたしても顔を真っ赤に染めた。

「病室であんなにちゅっちゅしてたわりにウブなんですね〜可愛い〜」

「そのことはもう忘れて下さい……」

はぁもう。こういう可愛い女の子大好き……っておじさんか私は。

「ふふふ、からかってごめんなさい。実は鷹峯さんとは訳あって同棲しているんです。あ、別に付き合っているわけではないんですけどね?」

「ええっ!? ど、同棲っ……!?」

その言葉に、女の子はまたしてもびっくりしていた。

「同棲っていうか同居? まぁ居候(いそうろう)させてもらってるって感じかな?」

同棲……同居……居候……と女の子はぶつぶつ呟く。鷹峯さんが女と住んでいることにかなりの衝撃を受けている様子だ。

「あの鷹峯先生が女の人と……な、なんか想像が付かないです……職場では女性の噂なんて聞いたことがないので……」

職場? もしかしてこの子、鷹峯さんの同僚なのかな?

「……それにしても、鷹峯さんのやつ上手いことセフレのこと隠してるのか……あんだけたくさんセフレ抱えてるくせに器用な男め……」

「ちょ、ちょっとさっきから、それ……ていうか鷹峯先生にセ、セフ……だなんてそんな……」

セフレセフレと恥ずかしげもなく連呼する私に、相反して茹でダコ状態の女の子。可愛すぎてもっともっと鷹峯さんの不埒なあれこれを聞かせてあげたくなっちゃう。

「あの、もし時間あったら私の話聞いてもらえません? うち寄ってもらって良いんで!」

まぁうちって言っても、鷹峯さんの家なんだけどね?





< 64 / 110 >

この作品をシェア

pagetop