腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

ブラックチョコレート

私はここ最近、自身の身に起きた数々の不幸を話して聞かせた。

ちなみにその女の子の名前は雨宮雛子(あまみやひなこ)ちゃん。この春看護師二年目となったピチピチの二十二歳。昨年度まで鷹峯さんは東京病院で働いていて、その時彼にとてもお世話になったのだと教えてくれた。



「……で、私は鷹峯さんと同棲を始めることになったわけなんですよぉ〜」

「そうだったんですか……それは大変でしたね……」

〈こら、私の存在は話さないわけ?〉

ちなみに春夏に取り憑かれている件に関しては端折(はしょ)った。頭のヤバいやつに家に連れ込まれたとか思われたくない。

雛子ちゃんは本当に親身になって私の話を聞いてくれた。元々そんなに友達が多い方でもない上に、結婚式の招待状まで送っておいて破談にされた愚痴なんて情けなくてとてもじゃないけど友達にはできやしない。

しかも鷹峯さんの共通の知り合いというのも初めてだ。私はここ最近溜め込んでいた自分の気持ちを雛子ちゃんにひたすら話した。

「あっ、ごめんね、お茶も出さずに……今準備するね」

「いえそんな、お気遣いなく!」

遠慮する雛子ちゃんを後目に、勝手知ったる鷹峯さん家のキッチンで私は普段は使っていないマグカップを取り出す。

お茶と言っても、普段鷹峯さんはコーヒーかお酒しか飲まないし、私はココアしか飲まない。

二択で、私はココアを選択した。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

続いてお茶請けを出そうと思ったんだけど、生憎私用のチョコレートアソートしかないことに今更気が付いた。

しまった。チョコレートを出すならコーヒーの方が良かったかな。

「なんかごめんね……こんな組み合わせで……」

私はチョコレートアソートを机の上にバラバラと広げる。雛子ちゃんはそんな私にも丁寧にお礼を言いながら、ブラックと書かれた黒い包装のチョコレートを一つ手に取った。

「私も……今までの人生で、色々と辛いことがありました」

雛子ちゃんはその内容を語らなかったけど、昔を懐かしむような苦い笑みを浮かべていた。

「その時は辛くて、苦しくて、とっても苦かった……このブラックチョコレートみたいに」

雛子ちゃんはチョコレートを口に入れる。私もそれに習ってブラックのやつを選んで口に放り込んだ。甘党の私が普段はあまり選ばない、最後に残っていつも仕方なく消費するブラックチョコレート。
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