腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
鷹峯さんのように気の利いたお洒落なプレゼントなんて私は思い付かない。そうなるとおのずと消えもの一択か。

「あ、鷹峯さんってお酒好きだよね。この前の高級レストランでもボトル三本くらい開けてたし」

鷹峯さんのお酒好きはかなりのもので、家でもよく晩酌をしている。一人暮らしするには大き過ぎる食器棚の中には、ウイスキーやブランデー、日本酒、その他スピリッツの瓶がたくさん飾られている。その数は多分食器より多い。

その横には家庭用のミニワインセラーもあって、中身のボトルは頻繁に入れ替わっている。

「確かバイト先のお酒コーナーに期間限定のワインを置くことになったって店長が言ってたよね。それを買ってきて、美味しいおつまみでも作って振る舞うってのはどうかな?」

〈あんた料理だけは得意だもんねぇ〉

「こらこら、だけってなによ、だけって」

とはいえ、春夏の言うことはあながち間違いじゃない。私は洗濯物もよく出しっぱなしにするし四角い角を丸く掃くけど、料理の腕だけは少し自信がある。

「消えものなら彼氏じゃなくてもプレゼントしやすいしね。よし、それに決めた!」

今日はバイトの日だけど、いつもは夕方までのシフトが他の人の都合で午前のみに変わっていた。急な変更だったので鷹峯さんには伝え忘れたけど、サプライズで料理の準備をするには丁度いい。




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