腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
(も、むり、むりっ、またイッちゃうって、……ああっ……!)

美怜先生が顔を真っ赤にしながらくたりと脱力した。それを鷹峯さんが難なく受け止めて、満足そうに彼女の髪を撫でる。

(……っもう! さっきから私ばっかり何回イかせれば気が済むの? 最初から飛ばし過ぎよっ……!)

(ふふ、言ったでしょう? もう限界なんですよ……彼女がいたら女性を連れ込めませんしねぇ)

あ、私邪魔なんだ。

そりゃそうだ。ちょっと考えればすぐに分かることだ。鷹峯さんにはセフレがたくさんいて、気が向いた時だけ家に呼んでことを済ます。

でも私と一緒に住むようになってからは?

たぶん今までのように気軽に人を呼ぶことも出来なくて、ずっと我慢させていたんだ。

仕事の帰りや私のバイト中にこうして誰かと肌を合わせることも出来ただろう。でも鷹峯さんは私に気を使って、きっと誰とも会っていなかったんだ。


(はぁっ……柊真ぁっ……)

(ふふ……貴女も久しぶりなんじゃないですか? 今日は一段と感度が良いようですが)

(違っ……私じゃなくて柊真がっ……あんっ……!)


美怜先生が何か言う前に、鷹峯さんはその指先で彼女を黙らせる。

ああ、私、鷹峯さんの好意にずっと甘えてたんだ。

言われるがままお金も出してもらって、住むところも与えてもらって。


(んっ……今日の柊真、なんか変だって、ああっ……!)


情事の声を聞きながら、私が感じたのは羞恥だった。それはその行為そのものの羞恥じゃない。

ずっと迷惑をかけ続けていたくせに、こんな私ごときの手料理でお礼をしようと思っていた自分がものすごく恥ずかしくなった。

「……っ」

何だかとても情けなくて泣けてきて、私は踵を返す。

中の二人がはっとしたような気配がした。バレたかもしれないけど、もうそんなの気にしてられない。

〈……なに泣いてんのよ〉

「ううっ……うるさいなぁ……っ」



私はそのまま、鷹峯さんの部屋には帰らなかった。











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