腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
だってたぶん、鷹峯さんは美人で後腐れなくてスタイルが良くて、ちゃんとセフレとして立場を弁えている頭の良い女の人が好き。

百歩譲ってセフレの一人として私の相手をしてくれるとして、鷹峯さんの奔放(ほんぽう)な性格を割り切って身体だけの関係だなんてきっと私は満足できない。

心まで、独占したくなるに決まってる。

「そんなの絶対……ウザがられるよ……」

私はノロノロと身体を起こす。

それにしてもこの部屋、電気が止まってるのでエアコンを付けられなくてジメジメとして暑い。

さっきから蒸し風呂みたいな部屋でうじうじと泣いていたら、だんだん気分が悪くなってきてしまった。

「うぁっ……」

バランスを崩して、私は一度思いっきり倒れ込んだ。

身体を支えきれなくて、ドタンと大きな音が家具のない部屋に響く。

うわ、これ絶対下の部屋の人に響いてるよ……名前すら覚えてないけど下の人、ごめんなさい。

〈……ちょっと聖南、大丈夫なの?〉

「ん……大丈夫だよ……」

とはいえ、ここにいたら熱中症で孤独死してしまいそう。ますます物件価値が下がってマンション住人に迷惑をかけそうだし、春夏と仲良く同じ部屋で地縛霊なんて事態は割と洒落にならない。

「でも鷹峯さんとこ帰りたくないし……とりあえずどっか涼しいとこ……」

よろよろと身体を起こそうとして、また転ける。やばい、本格的に足に力が入らなくなってる。

それでも何とか立ち上がると、玄関のドアからこっそり外を覗く。そして鷹峯さんの姿がないことを確認すると、私はマンションの外に出た。





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