腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
「うわ……外も暑ぅ……」

もうすぐ日が暮れる時間とはいえ、季節は既に夏。コンクリートジャングルは日中の熱が籠っていて、ムシムシとして身体が汗ばむ。

私は当てもなく、涼しくてどこか休めそうなところを探してふらふらと彷徨(さまよ)い歩く。

「もういやだ……きっと私には一生恋愛は無理なんだ……」

お金ないし、ネカフェは無理……座りたいからコンビニじゃなくてどこか商業施設に入ろう。

そう思うけど、この辺りはマンションが立ち並んでいて、ちょっと入って涼める場所もない。

もう恋愛どころか、人生詰んでる。

私は左右に揺れながらあてもなく夕方の街を歩く。

「何でこんなことになったんだろう……」

私の幸せは、別に大金持ちになりたいとか世界征服したいとかそんな大それたことじゃない。

普通に好きな人と結婚して、できれば子どもは二人くらい産んで、お金なんかなくても家族で慎ましく生活していける未来だった。

それってこんなにも贅沢なことだったんだな。

いや、鷹峯さんと出会って、何不自由なく生活させてもらって、十分過ぎるほどの幸せをもらった。もうそろそろ、甘えずに一人で生きていく方法も考えなきゃ。

「うぅ……気持ち悪……」

アスファルトの地面がぐにゃりと歪んだ気がして、私は倒れるようにその場にしゃがみ込んだ。

白と黒のしましま模様。あ、ここ交差点だ。

顔を上げると、歩行者用信号の青色がチカチカと点滅し始めていた。
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