腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
そう。鷹峯さんは両想いになったあの日から、一度も私に手を出してこなかった。

今まで誰彼構わずセックスしていた、あの鷹峯さんがだ。もちろんキスは言わずもがな。鷹峯さんはキスが好きじゃないから。

キスできないのは分かってはいたけど、やっぱり少し、いや大分、寂しいな。

〈雛子の彼と一緒よ。大事にされているからでしょ?〉

まぁうん。そうだとは思うんだけど、私は雛子ちゃんのようにピチピチでも、男慣れしてないわけでもない。人並みの経験もあって、そこまで壊れ物のように扱ってもらわなくて大丈夫なのは鷹峯さんも分かっているはずだ。

鷹峯さんは他の女性の連絡先は消してくれて、もう会わないと約束してくれたしそこに関しては信頼している。もちろん美怜先生は同僚だしそういうわけにいかないけど、セックスフレンドからただのフレンドになるとはっきり言ってくれた。

美怜先生も私達のことは鷹峯さんから聞いて知っていて、受診の時、私が何か言う前にテンション高く祝福してくれた。

だからほかのところで発散してるってことはないはずなんだ。それなのに。

「はぁ〜。ココア美味しい〜チョコレート美味しい〜鷹峯さん大好き〜」

「ふふ、可愛いですねぇ」

私が欲しいのは、そんな甘い言葉じゃないのに。ううん、正確には、もう甘い言葉だけじゃ満足できなくなっちゃった。

鷹峯さんが欲しいのに。
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