腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
翌日。

私は差し込む夕日も既に沈みかけた仄暗い1402号室で、緊張しながらその時を待つ。

ここは私と航大が過ごした部屋。今は電気も水道も止まっていて、家具もほとんど残っていない空っぽの部屋。


インターホンが鳴る。


「……はい」

私は硬い声で小さく返事をしながら玄関のドアを開ける。

「聖南っ……」

「ちょっと……!」

ドアを開けた瞬間、航大は玄関へ入り込むと私のことを抱き締めた。その行動を予想できず、私は拒否する間もなくその腕に抱きすくめられる。

「離してよっ、私達もうっ……」

「悪かったっ……!!」

私を離すことなく、航大はますます腕の力を強める。

「聖南……俺達、やり直さないか……?」

航大は私を抱き締めたまま、真剣な声音でそう呟く。

「えっ……?」

私の方はもちろん寄りを戻す気はなくて、ただ会ってさよならしようと思っていただけだ。私は強く抱き締める航大の胸を押してその腕から無理矢理抜け出す。

「……ごめん、復縁する気はないの。用が済んだならさっさと帰って」

やっぱり鷹峯さんの言う通り、忘れ物だなんて嘘だったんだ。きっとここに来る口実だったに違いない。私は航大の身体を玄関の外に押し出す。

「な、なんでだよっ! 頼む、俺にはお前が必要なんだ!」

「はぁ!? ふざけないで! 良いから出てってよ!!」

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