腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
先程まで私との復縁を迫っていたくせに、それが不可能と分かるやいなや暴言を吐かれる。あまりの言いように、カチンと来た私は言い返す。

「はぁ!? 元はと言えばあんたが女作って出てったんじゃない! しかも卑しく家具まで持ち出して、あんたなんてアバズレ以下のクズ野郎でしょ!!」

「てめぇっ!!」

カッとなってまた拳を握る航大。殴りかかられそうになったのを鷹峯さんが片手で受け止め制止してくれる。

「チッ……クソッタレが!! どうせお前もこいつの身体が目当てなんだろっ!? アバズレだけあって身体だけはイイもんなぁっ!!」

「っ!?」

「こんなブスで頭も悪くて料理以外家事もろくにできない女、セックス以外に需要ねーだろ! それなのにここに引っ越してから全然やらせてくれねーし、マジで一緒にいる意味なかったわ!」

一気にそう捲し立てる航大。私は羞恥で顔が赤くなるのが分かった。

そんなふうに思われているなんて知らなかった。気付かなかった。

でもこんなこと、よりによって鷹峯さんの前で言わなくたって良いじゃないか……。

「それが借金全額返済されたっていうからまだ利用価値があるかと思って来てみりゃ、金持ちの男手玉に取ってただけだもんな! こんな女別れて正解だわ!」

こんなの泣く。恥ずかし過ぎて、自分が惨めすぎて、穴があったらブラジルまで潜りたい気分だ。

「……」

依然として次から次へと悪態をつきまくっている航大をよそに、鷹峯さんが私をきつく抱き締めた。

そしてそのまま後頭部を掴まれたかと思うと、突然。

「んぅっ……!?」


キス、された。


「たか、んっ、んむぅ〜〜っ……」

そのまま角度を変え、そのキスは次第に深くなっていく。

どうしよう。航大に見られてるのに。

「はっ、たか、がみね、さ……っ」

身体が熱い。キスされてるだけなのに、全身愛撫れているかのように気持ち良さが駆け巡る。

やがて立っていられなくなってへなへなと腰の砕けた私を、鷹峯さんは満足そうに笑いながら改めて抱き寄せる。
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