腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
違う。正確には、言ったのは春夏。でもそんな反論はもちろん許されない。

胸で遊ぶ手と反対の手を、今度はジャージのズボンの中に入れられる。そのまま下着の中まで侵入し、長い指が私の弱い部分を攻める。

「っ……」

恥ずかしいほどに私の身体は素直に反応していて、鷹峯さんの巧みな指の動きに一気に高められてしまう。

『身体の隅々まで知っていないと気が済まないんです』

そう言っただけあって、鷹峯さんは私の身体を全身愛してくれた。そして見つかった私さえ知らなかった性感帯は、彼によってどんどん開発されていった。

「あっ……んんっ、……!」

足から力が抜けてしまった私を、鷹峯さんが抱き留めてくれる。

「って駄目ですよ! もう出勤の時間でしょう!? 私もバイトの準備が……」

「そうですね。では続きは帰ってから……聖南」

また一つ、軽い口付けをする。私はそのたびに、小さな幸せが弾けて心が温かくなる。

「いってらっしゃい、気を付けてね」

「貴女も、バイトの行き帰りは気を付けて」

先に家を出る鷹峯さんを、私は玄関で見送った。



〈何だか甘々ねぇ〜鷹峯さん。一線越えてからのイチャイチャっぷりと来たら……〉

鷹峯さんの姿が完全にドアの向こうに消えると、春夏は飽きれたようにそう宣う。

「……ねぇ、春夏はいつ満足して成仏できるの??」

私達がイチャイチャしている時にはわりと空気を読んで静かにしている春夏。

元々彼女の願いを叶えるために始まった同棲生活なのに、私達が両想いになり一線を超えてもまだ一向に成仏する気配がない。

〈……私もそうしたいところなんだけどぉ〜。実はどうやって成仏したら良いのか分からないのよねぇ〜〉

「……は?」

おい、ちょっと待て。話が違うじゃないか。

「どう言うこと!? 私一生このままなわけ!?」

だってこのまま取り憑いていると私は死んじゃうって言ったのは春夏だ。現代医学の力で何とか体調は持ち直したものの、今でも食欲はあまりないし身体は常にだるいしで本調子とはならない。

〈まぁまぁ、あんたの余力もまだ少しはありそうだし……そのことは追々考えましょ〉

「追々って……」

とはいえ、現時点で解決方法が分からないのなら話していても仕方ない。

とりあえずバイトへ行く準備でもしよう。一応ドアは施錠して、部屋の方へと向き直った時、くらりと視界が揺れた。

ん……?

「な、なんか具合悪い……」

〈ちょっと、どうしたのよ?〉

「め、目が回る……うぇぇぇぇ〜……」

視界がぐわんぐわんと揺れたかと思うと今度は猛烈な吐き気に襲われ、私は思わずその場にへたり込んだ。












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