逃げ切ったはずなのに
「最悪……」

マンションの前まで来た時、私は絶望と嫌悪感から足を止める。一人暮らしのOLや普通の家族が多く住んでいるマンションには不釣り合いな黒塗りの高級外車が止まっていたからだ。

スーツを着たおじいちゃん運転手が出てきて、後部座席のドアを開ける。すると、ブランド物のスーツにブランド物の時計、ブランド物のメガネをかけた私の父が姿を見せる。二度と見たくない顔だ。

「久しぶりだな」

私は不機嫌な顔をしているというのに、父はニコニコと笑っている。父がここに来るということは大体ロクなことじゃない。御曹司が多く参加するパーティーに出席しろとか、お見合いをしろとか、父が来るたびに無理やり約束させられていた。

「……今度は誰とのお見合い?それかまたパーティー?いい加減にしてほしいんだけど」

父が連れてきた相手とは結婚しない。これは私の意地だ。絶対に譲ったりしない。父を睨み付けると、父はそれでもニコニコしながら「中で話そう」と私の手を引く。私はすぐに父の手を振り払った。
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