逃げ切ったはずなのに
「触らないで!」

絶対零度、その言葉がこの場に相応しいだろう。血の繋がった親子、家族とは思えない冷たい空気が流れている。もしも、普通の家に生まれることができたなら、私も家族を大切に想えたのかな。

マンションのエレベーターに乗り、自分の部屋へと向かう。父は黙ってついてきていた。鍵を差し込み、部屋の中へと入る。

「お邪魔するよ」

そう言う父の言葉は無視して手を洗い、着ているスーツにシワがつかないようにハンガーにかける。部屋着に着替えてリビングに行くと、父は勝手にリビングの椅子に座っていた。

「まあ、ここに座って。今日は今までのことよりずっと大事な話なんだ」

向かいの椅子を指差され、私はしぶしぶ座る。追い出したいが、父は話を終えないと何が何でも出て行ってくれない。ので、そこで抵抗はしない。

私が椅子に座ると、父はお見合い用の写真を取り出す。またお見合い?うんざりしていると、父が口を開く。

「お前の婚約者が決まった。相手の方から申し込んできたんだぞ」

「……は?」
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