逃げ切ったはずなのに
この人、今何て言った?婚約者が決まった?お見合いもせずにいきなり婚約だなんて、頭がイカれてるとしか思えない。

「お相手の名前は志麻暁人(しまあきと)くん。志麻グループの次男でお前と同い年。幼い頃から英才教育を受けていて、氷室グループを継ぐのに相応しい男だ」

呆然とする私の前で嬉しそうに父は話し、お見合い用の写真を広げる。サラリとした整えられた黒髪、細くてスーツをしっかりと着こなす体、大きな目の下にはホクロがある。世間一般で言えば写真に写る彼はイケメンと呼ばれるものだ。

志麻グループは、氷室グループと肩を並べるほど大きなグループだ。仮に結婚をすればこの二つのグループは強く結び付けられるわけで、こんな機会を父が逃したいと思うはずがない。本気で結婚させるつもりだ。

「来週の日曜日、暁人くんが会って話したいと言っている。その時に、結婚式のこととか新婚旅行とかの話もしたいそうだから、失礼のないようにーーー」

勝手に話を進めていく父に腹が立ち、私は机を思い切り叩く。父を睨み付け、「ふざけないでよ」とようやく言葉を発せた。
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