逃げ切ったはずなのに

「私、お父さんの決めた相手とは結婚なんかしないって言ってるでしょ！？なのに勝手に婚約者を連れて来るなんて信じられない。お父さんが会社経営者だか何だか知らないけど、これは私の人生。私に決める権利がある！普通の生活を楽しんでいるんだから、邪魔しないでよ！」

父は「家の繁栄が〜」とか言っているけど、怒りで耳になんて入ってこない。家なんて知らない。

「お前、今年で二十六歳だろう？恋人もいないみたいだしいいじゃないか」

「仕事が楽しいから、今は恋愛とかいいの。別に三十代で結婚とか、今じゃ普通だし問題ないわ。とにかく、私は婚約なんて認めないから！」

父を追い出し、鍵をかける。ドッと疲れが押し寄せて、その場に座り込んでしまった。でも、父が帰ったからと言ってその婚約が消えたわけじゃない。

「……逃げないと！」

もしも逃げずにこのまま来週までいたら、無理やり婚約者の前に引っ張られて、正式に婚約させられてしまう。そうなる前に逃げないと！