逃げ切ったはずなのに
「ふぅ……。仕事ようやく片付いたわ〜……」

凝った肩を揉みながら椅子から立ち上がり、グッと体を伸ばす。在宅勤務のいいところは残業がないこと。自分の時間で仕事ができる。

もう夕方だ。ご飯の支度をしないと。そう思って立ち上がった刹那、呼び鈴が鳴り響く。

「は〜い!」

どうせご近所さんだろうと思い、返事をしてドアへと向かう。チェーンを外してドアを開けると、そこにはブランド物のスーツを着た男性が立っていた。多分、歳は私とそんなに変わらないだろう。

整えられた黒髪に、目の下にホクロがあるかっこいい人。こんな人、近所で見たことがない。でも引っ越しのトラックなどを見かけていないから、引っ越して来た人でもなさそうだ。

「あの……どちら様、ですか?」

男性が無表情に私を見下ろすので、やけに緊張する。男性はフウッと息を吐くと、「志麻暁人です」と名乗った。

「志麻暁人さん……?」

誰だっけ?どこかで聞いたことのある名前だ。でも、あと一歩のところで思い出せない。あれ?志麻ってあの志麻グループのこと?
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