ファーストソング

小説を集中して読んでいると、扉が開く音が聞こえる。

もう少しで面会時間ギリギリだけど、誰だろう?
そう思いながら振り向くと、予想だにしていない人物がそこにいた。


「佐久間夏輝…?」


静かに扉を開けることが出来たのか!
そう感心しているなか、彼の態度に目を見張る。

いつも元気な彼がかなり落ち込んでいる。

そんなに『サヨナラ』が歌えないの?

そう思って励ましの言葉をかけようとした。


「…あのさ、あの曲は「…千冬ちゃん。」…え?」


私の言葉を遮るように話しかけてくる。


「俺さ、本当に馬鹿でごめん。」
「え?どういうこと?」

「…千冬ちゃんの病気、難しい病気なんだよね?」


なんで知って…。

私はコイツに何も伝えていなかったのに。


「…聞いちゃったんだ。」
そう言う彼はずっと俯いたままだった。
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