ファーストソング

「あ!俺、佐久間夏輝(サクマナツキ)っていいます!今年高3になる、17歳です!誕生日は8月17日の獅子座で、夏生まれだから夏輝っていいます!好きな食べ物は母ちゃんの卵焼きで、嫌いな食べ物は特にないです!そんで、そんで、夢は『フユ』みたいな歌手になることです!!!」


驚愕と疑問で硬直している私に畳みかけるように話しかけてくる。

自己紹介されたのか?
私は、今自己紹介されたのか?


あまりにも言葉を発さない私に痺れを切らしたのか、佐久間夏樹は私の顔の前で手をヒラヒラさせる。

その行動に少しイラっとする。
そもそも勝手に病室に入ってきて、勝手に自己紹介された今、コイツの、佐久間夏樹の願いを叶える必要があるか?

答えは否。


「『フユ』は引退したんだよ。だから、アンタ「佐久間夏輝です!!」…佐久間夏輝に曲は作らないよ。」


断ればすぐに帰ると思った。
なのにこの男は「えー、どうしてもッスか?」と言い出したのだ。

だから私もむきになる。


「どうしても。」
「本当にどうしても??」
「本当にどうしても。」
「本当の本当にどうしても??」
「本当の本当にどうしても。」
「本当の本当の本当に「しつこい。」…はぁ。分かりました。」


溜め息つきたいのは私だ。


「なら曲作ってくれるまで、俺、毎日ここに通いますから!!」

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